| |
2010年3月号 No.740 |
|
新幹線延伸をチャンスに
長野が今後何で食べていくか、
経済の柱をこしらえるべき
長野新幹線は、2014年に金沢まで延伸します。長野は素通りされてしまうのではないかと危惧する声が聞こえますが、問題の本質はそこにありません。私たちは今、長野がこの先何を飯のタネにしていくかを問われているのです。観光を考える時も、経済政策として本腰を入れ、いかに広い分野の産業を刺激できるかがテーマになります。
長野新幹線がもたらしたもの
―― 1997年10月開業した長野新幹線は、長野にどんな影響を与えたのでしょうか。
岩本 長野―東京間の所要時間がおよそ1時間半短縮されたことで、東京を中心に関東方面から長野にみえる方が確実に増えました。沿線の経済効果をみると、軽井沢では卸小売の額が10年前の1・7倍に増加しています。アウトレットモールには昨年度は850万人が訪れたそうです。佐久平駅周辺も大きく変貌しました。上田市、長野市、小布施町も観光客が増加傾向です。一方、小諸市や戸倉上山田は苦戦しています。
人口動態については、少子高齢化の中、軽井沢は増加、佐久は堅調です。長野市では、ここ10年間で人口が減る傾向に対し、世帯数は約1万増えています。
そんななか、昨年の善光寺御開帳も長野経済を活気づけました。ゴールデンウィーク期間中の人出は207万人で、弘前さくらまつりの244万人に次ぐ全国2位でした。ただし、高速道路休日割引の影響で、新幹線利用客はマイカー客や団体バス旅行客の増加にはおよびませんでした。長野新幹線延伸対策特別委員会(以下新幹線特別委員会)では、御開帳は長野経済に大きな効果をもたらしたものの、日帰り客の増加と不景気により観光客一人当たりの消費単価は減少しており、今後長野県全域を視野に入れた周遊観光を企画し、アピールしていくことが重要であると分析しました。
長野は都市として、市場として
魅力的か
― 新幹線は2014年に金沢まで延伸します。これは長野にどう影響しますか。
岩本 1月21日の新幹線特別委員会でも話題が出ました。関係者の話を総合すると、長野―金沢開業に伴い、利用客が現在の1日当たり約2万5千人(高崎―軽井沢間2008年度実績)から大幅に増えそうです。これまで空路や在来線を利用していた人の多くが新幹線に切り替える、つまり金沢延伸は、長野にプラスに働く要素もあるということです。
次にマイナス部分についてです。現時点で長野と金沢のまちとしての体力差は歴然です。加賀百万石の名の通り、江戸時代から積み重ねられたインフラの差は現実問題としてあります。長野市には日本の仏教史そのものを背負う善光寺がありますが、これだけに頼っていたのではだめでしょう。長野で列車を降りても善光寺参りだけ済ませ、宿泊や周遊観光は北陸でする、そうしたスタイルが定着しかねません。
金沢は歴史遺産ばかりでなく、金箔などの工芸、和菓子や海産物など食も豊かです。さらに、大学をはじめ教育施設が集積した学園研究都市でもあります。また経済も力強く、市場としてもたいへん魅力的な都市です。
一方、近年長野市で企業の支社や支店、営業所が次々閉鎖、撤退していることに、私は相当危機感を持っています。営業所が一つなくなるだけで、地域での雇用はもとより衣食住あらゆる消費に大きく影響するからです。
なぜ彼らは長野を去ったのでしょう。要は、長野市に都市としての魅力があるか、購買力があるか、これを保証する人口が今後増える可能性があるかということです。新幹線延伸により、長野が素通りされてしまうことが問題の本質ではありません。商工振興を含めたまちづくりの推進と同時に、新幹線延伸をひとつの契機に、今後長野は何で飯を食っていくのか真剣に考えるべきです。これは長野市民全員の問題です。名称問題をはじめとして、当委員会が急ピッチで活動を始めたのもそうした背景があるのです。せっかく10年前に先輩方が長野に新幹線をもたらしてくれたのだから、金沢延伸をチャンスと捉え、この先長野経済の柱となる飯のタネをきちんとこしらえておくことでしょう。
観光は貿易の一形態である
― 私たちは何から手をつけるべきですか。
岩本 新幹線特別委員会では、JR長野駅をハブ駅とする構想を推進します。周辺観光地とのアクセスはもとより、松本空港との連携、諏訪や伊那谷地方との連携もテーマです。同時に、長野を起点に信州全域を周遊する観光のルートづくりも進めたいものです。信州出身の児童文学者・椋鳩十は、かつて「信州の小提灯、薩摩の大提灯」と言ったそうですが、もはや地域ごとに小競り合いをしている時代ではありません。
もうひとつ重要なテーマは、国内観光はもちろんですが外国人観光客を増やすことです。これは人口減少対策にもなります。国内定住人口一人当たりの年間消費額は120万円だそうです。これを補うには、7人の外国人が観光に訪れれば足りると言います。つまり、長野市の人口が一人減っても、7人の外国人観光客でカバーできるわけです。もはや観光は、経済政策の一面を持ちます。
国土交通省の調べによると、国内における観光の市場規模は23兆円、その波及効果は約53兆円です。うち交通、宿泊、飲食が16兆円で、残り7割の37兆円が、農林業、金融、不動産、石油、通信、放送等多分野への効果であることがポイントです。つまり、観光の活性化でさまざまなビジネスを大きく伸ばせる可能性があるのです。観光を経済の眼で見れば、貿易のひとつの形態だと私は思います。ただし、日本の観光の規模は対GDP比5%程度で、EUの約10%と比べると大きな開きがあります。
また、観光はテロやインフルエンザなど不測の事態に左右される不安定要素もありますが、長野県には他県にはない財産がたくさんあるのですから、新幹線問題を機軸にして、もっと広い視野で信州を活性化する企画をつくればいいのです。現状に危機感を持ち、新幹線延伸をチャンスと捉えれば、やるべきことはいくらでもあります。
すでにさまざまな取り組みが始まっておりますが、長期的には工業の振興も重要だと思います。ここ数年、信州大学工学部との連携が盛んですが、さらに繊維学部など他学部とも協力できることはたくさんあるでしょう。企業も大学も互いに得意な分野を持ち寄って連携を強化し、短大、高専にも協力関係の裾野を広げていくことが、経済の導火線になると期待しています。
企業誘致についても、全国からベンチャー企業を呼ぶに留まらず、税制などでさらにメリットを与えるなど育成策も進めるべきで、農村における定住策と同様な施策が工業でもできるはずです。こうした課題についても、商工会議所内の各種委員会同士で、あるいは他の経済団体や行政との間で、熱心な議論が展開されることを望みます。
|
|