2017年10月号

View Point

羽生田 豪太(はにゅうだ ごうた)

長野商工会議所工業部会長
株式会社羽生田鉄工所代表取締役

昭和40年生まれ。昭和60年㈱羽生田鉄工所入社。平成13年5月㈱羽生田鉄工所代表取締役就任現在に至る。

いい商品をつくりうまく発信すれば
 地方でもきっと勝負できるはず
  長野商工会議所も部会員の挑戦を後押しします

 長野の工業界は、地方の製造業の例にもれず、需要地から遠いというハンディがあります。しかし、情報は世界とつながっている時代ですから、市場における自分の立ち位置を見極め、新たな価値をつくり出して世界に発信できれば、地方にあっても勝負できます。長野商工会議所のネットワークを活用しながら、部会員がより競争力を高めるため、情報交換や勉強の場などを設けていきます。

当会議所のネットワークで
部会員に勉強の場を

── 羽生田社長は、長野商工会議所工業部会長に就任されました。抱負をお聞かせください。

羽生田
 部会に参加している会員にとって有意義で、しかも当会議所全体の活性化につながるような部会活動ができればと考えています。  長野エリアで工業は比較的小さな産業であるため、工業部会のメンバーも数こそ多くはないですが、個性的で面白い会社、いい技術を持っている会社もあります。当会議所のネットワークを活用しながら、より競争力を高めるための勉強の場を増やしていけたらと思います。
 今年度の事業としては、まず産業フェアの成功に向けできる限りの協力をします。もう1つ、来年2月UFOものづくりサロンにおいて、信州大学と長野県が進めている信州大学航空宇宙システム研究センターの事業にフォーカスし、SUWA小型ロケットプロジェクトを紹介します。宇宙産業と聞くと敷居が高いように思われますが、実はアイデア次第でどんな企業にもチャンスがあります。「うちも挑戦してみよう」と参加者の意欲を駆り立てる企画になればと期待しています。

 

製造業者は売り方のことも
しっかり学ぶべき

── 長野地域の工業について、どんなことが課題だとお考えですか。

羽生田
 需要地から遠いことが挙げられます。たとえば航空産業が盛んな中京圏に近いということで、飯田エリアが注目されています。しかし、ここ長野までそのメリットは及びません。地の利がないなら、他と差別化できる強みがほしいところです。また、産業集積がそう簡単にできるわけではないので、企業同士がつながって、互いの技術力を高めていくことも必要でしょう。
 とはいえ長野市が抱えるこうした条件は、日本全国どこでも大差ありません。20世紀型のサプライチェーンから脱却し、21世紀型の工業のあり方を探ることは、これからの地方の工業界にとって共通の課題なのです。情報に関しては世界中がつながっている時代ですから、いい商品ができて世界にうまく発信できればチャンスは生まれます。とくにBtoCビジネスではそうだと思います。
 その際、製造業者はものづくりのことだけではなく、売り方のこともしっかり学ばねばなりません。まず情報を収集して、自分たちのビジネスの立ち位置、市場における自らの価値の所在を把握すること、そのうえでこの先自分たちに何ができるか考え、これに挑戦し、今度は自ら世界に情報を発信していくことです。企業の側はそこへ一歩踏み出すべきですし、当会議所では企業の背中を押すべく、情報交換の場を用意することが必要だと思います。

 

現状への危機感が
自社ブランド製品を生んだ

── そうした挑戦は、どんな企業にも可能でしょうか。

羽生田
 不可能ではないと思います。当社も、鉄を加工する技術を磨きボイラーの会社からクラッチ式圧力容器の会社へと生まれ変わり、さらに圧力容器に制御機構を組み込んで装置化するという要素技術を昇華させて、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を圧力加工成形するオートクレーブを手がけるようになりました。
 CFRPは鉄と比較して重さが4分の1なのに、強度は10倍あり、宇宙航空産業や自動車産業、建築土木産業でも注目される素材です。オートクレーブはいわばCFRPの焼き釜で、カーボン繊維を編み込んだシートに熱で固まる樹脂をしみ込ませ、この装置で加圧・加熱することで、いろんな形状に成形することができます。
 ほんの15、16年前まではうちはタンクをつくる会社で、実力からしても自分たちにそれ以上のことができるとはイメージできませんでした。それがオートクレーブをつくるようになって、新たなステージに立てました。当社に転換をもたらしたのは何か。現状への危機感です。タンクや圧力容器だけつくっているうちは下請け、よくてOEM止まりです。自分たちの裁量で仕事をつくっていくことはできません。また、主力製品の市場も縮小し、仕事のやりがいも小さくなっていきます。だから、自社ブランドで最先端を目指すことが会社にとって重要だったのです。
 先端産業における自社ブランドができたことで、優秀な人材も集まるようになりました。お客様の幅も広がりました。装置単体ではなく、その装置をつくる一連の技術もひっくるめて、さまざまな方面からお声がけいただくようになりました。これまで取引のなかったような大手企業とのお付き合いも始まりました。なかには人工衛星など宇宙産業に携わるお客様もいます。こうして取引先が広がり、最先端の仕事をしているお客様とお付き合いすることで、経験が蓄積され、装置をエンジニアリングしていく技術力も格段に上がりました。それに自分たちが手がけたものが宇宙へ上がるとなれば、爽快な気分にもなりました。

 

人材の育成と確保に
経営資源を投資する

── 企業が自らの新しい価値を生み出すときに、ポイントとなることは何でしょうか。

羽生田
 新しい価値の種は、新聞やテレビで情報を拾ったり、人と話したりしていれば見つかるものです。ただし、これを実現するときどうやるか、誰とやるかが難しいのだと思います。とくに人材を育てないといけないので、そこに時間とお金が掛かります。我慢のいる取り組みですが、人材への投資がいちばん大事です。人材育成では当社も人には言えぬ苦労がずいぶんありました。
 新しい価値を生むために、自社に経験値のないことは、外から人に来てもらわないといけません。うちもオートクレーブの開発では大手メーカーさんのOBに来てもらい、開発プロセスを教えてもらいました。開発に着手した時点では、自分たちだけでなんとかできると安易に考えていましたが、いざ始めてみると知らないことだらけでした。専門家に来てもらわないと手も足も出なかったのです。ちゃんと市場で認められるオートクレーブの商品化は、結局外部の専門家の存在抜きには成し得ませんでした。
 今うちにいる技術顧問のなかでいちばん年上は80歳です。定年退職した技術者で自分の経験やノウハウを伝えておきたいと考える人はたくさんいます。今後もっと増えてくるでしょう。彼らが活躍するか否かで、日本の経済は今後大きく変わります。ただOB人材を見つけるには日本中にアンテナを張る必要があって、偶然の出会いがない限り一企業が容易にできることではありません。そうした人材と企業をマッチングさせる場づくりでも、当会議所が果たせる役割はあると思います。

羽生田 豪太さんの横顔
かつてはギターや釣り、スノボなどに親しんだが、いまは奥様と休日を過ごすのが趣味と話す。たとえば、2人で日帰り温泉へ出かけてリラックスしたりなど。


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