2017年9月号

人きらっとひかる

選び抜かれた芸術、親しみ参加できる芸術
どちらも体感できる市民の文化拠点に

松原 千代繁さん
長野市芸術館  総支配人

 長野市芸術館が開館し、間もなく1年半が経過しようとしています。館の運営を通じ、市民が芸術に親しむ心や、子どもたちの文化的な感性を高めていきたいと、日々、企画を模索しているのが、総支配人の松原千代繁さんです。ホルン奏者、楽団経営者、劇場運営者など、さまざまな立場で長年芸術文化に携わってきた松原さんのお話に興味は尽きません。

開館2年目を迎えた
長野市芸術館

チケットセンターと情報ライブラリー。長野市芸術館の施設、公演に関する情報のほか、長野市・長野県内の文化情報や資料が集まっている

 昨年5月に開館した長野市芸術館。15万7千人が利用し、平均70%の入場率を記録した1年目を、総支配人の松原千代繁さんは「まったく新しい施設としては、まずまずの結果」と見ています。
 松原さんは開館1ヵ月前に就任。こけら落としから始まった1年間の数々の公演を見守り、想定以上の手応えに胸をなで下ろしたようです。世界的なジャズピアニスト チック・コリア氏から「音響が素晴らしい」と評価されるなど、うれしいエピソードもありました。
 「開館準備に携われなかったことを支配人として残念に思うものの、ハード、ソフト両面にわたり演奏家、聴衆それぞれの反応が好意的で、いいスタートだったと感じます」。
 こうした反応や感想をこまやかに収集分析し、2年くらい先を見据えて新たな企画を検討していくのが松原さんの劇場運営の手法です。
 松原さんは日本のオーケストラ草創期に、日本を代表する楽団のホルン奏者として活躍しました。やがて楽団経営で手腕を発揮。さらに公共劇場の運営や数々の音楽イベントに携わりながら、世界に通じる文化芸術が日本に浸透し、根ざす支えとなってきました。その経験と実績を生かし、新たな使命感を持って長野の文化芸術振興に取り組んでいます。

多くの市民が芸術に親しみ
感動できるように

開館2年目を迎えた今年は、芸術館主催・共催の公演がぐんと充実。クラシックはもちろん、古典芸能、演劇、教育プログラムなど多彩な催しが計画されている
 年間プログラムの中に、市民の演奏団体や合唱団、長野市を拠点に活動するプロの楽団などを積極的に登用しているのが、2年目を迎えた今期の特徴です。地元の演奏団体と世界的な音楽家や指揮者がコラボレートするコンサートなども企画しています。また、この7月には同館を中心に、善光寺、戸隠神社、長野市街地各所に舞台を広げた「アートメントNAGANO2017」を開催。クラシックはもちろんアニメ映画と音楽・トークのコラボレーション、童謡など多彩なプログラムで市民を魅了しました。年度末には市の交響楽団と小学生、そしてプロの声楽家が一緒に舞台に上がるコンサートも企画しています。
 「より多くの方々にご来場いただきたいと願っていますが、興行的な公演ばかりでは公共の劇場としての役割を果たせません。一人でも多くの市民の皆さんが参加し、文化芸術との関わりを深めていただけるような催しを提供したいですね」。
 今後の取り組みとして、市内の小学校、ろう学校、盲学校などへの“出前コンサート”にも意欲的です。
 「未来を担う子どもたちや社会的に弱い人々に、芸術に触れ、親しみ、文化を語り合う機会と場を提供するのが出前です。それが地域の文化的裾野を広げていくと信じています」。

クラシックや芸術の
おもしろさを多くの人に

 クラシックは堅苦しい、難しいと思われがちですが、「決して四角四面というわけではないのですよ」と、松原さん。
 「ベートーベンは目や耳が不自由なのに素晴らしい楽曲を作ったと讃えられますが、それ以上に、すべての楽曲が異なるアイディア、新たな挑戦で作られていることが驚きなんです。たとえば交響曲第5番のダダダダーン。あの4つの音が第1楽章だけで230数回も出てくることをご存じですか」。
 コンサートに親しめば、芸術家の人生や作品にちりばめられた興味深い物語を楽しむ機会も増えそうです。
 「そして、感じたことをぜひ語り合ってみてください。それが将来の芸術館を創造していくのです」。
 芸術館が長野市民とともに成長し、より価値を高めていくことに期待しながら、松原さんは芸術の魅力を親しみやすく発信することに力を注いでいます。
 

組 織 名 一般財団法人 長野市文化芸術振興財団
設  立 2013(平成25)年10月(法人設立)
業務内容 豊かな文化に支えられた「文化力あふれるまち 長野市」の実現に寄与することを目的とし、市民が文化芸術に触れる機会と場の提供をはじめ文化芸術活動の振興に資する事業を展開している。
所 在 地 長野市鶴賀緑町1613番地 TEL 026-219-3110

URL https://www.nagano-arts.or.jp/

1941(昭和16)年兵庫県生まれ。ホルン奏者として日本フィルハーモニー交響楽団での活躍を経て1972年新日本フィルハーモニー交響楽団創立に参画。1978年より同楽団主幹として企画、人事に携わり、事務局長、専務理事を歴任。同楽団を墨田区の「すみだトリフォニーホール」のフランチャイズオーケストラとするなど、楽団経営や地域の芸術文化向上における実績を重ねてきた。2014年サイトウキネンフェスティバル「兵士の物語」音楽監督。2016年より長野市芸術館総支配人。2017年文化庁長官表彰受賞。


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