2016年2月号

人きらっとひかる

聴く人の心に音楽への親しみが
生まれるような演奏をめざして

近藤 圭さん
声楽家

 日本を代表する若手声楽家の一人、バリトン歌手の近藤圭さんは長野市出身。クラシック音楽の本場ドイツでの武者修行ともいえる留学期間を経て帰国後、拠点を東京に移し、オペラやコンサートの舞台で活躍しています。世界に通じる技術や表現に磨きをかけるだけでなく、聴く人々に親しみを感じてもらえる音楽を発信していくことにも積極的に取り組んでいます。

若手バリトンのホープとして
国内外を舞台に活躍

 昨年12月19日、ホクト文化ホールに300名を越す大合唱団とオーケストラによるベートーヴェンの「交響曲第九番」が響き渡りました。長野の師走の恒例となったこの「第九」でバリトン・ソロを務めたのが、声楽家・近藤圭さんです。
 日本のバリトン歌手のホープと目され、国際舞台でも活躍中の近藤さんは長野市出身。音楽とバレエを愛する一家に生まれ育ち、幼い頃から生のオーケストラを間近に見る機会が多かったことから、自然に音楽の道を志すようになりました。
 声楽に目を向けたのは高校時代。国立音大入学後は「音楽のこと以外、何も考えられなかった」というほど歌うことに没頭し、大学院を首席で修了します。プロの声楽家として活動するなか、2010年からはドイツ・ハンブルグへ留学。様々なオペラ、コンサートで活躍し、オペラのタイトルロールをはじめ重要な役割を演じ、経験を積んでいきました。
※タイトルロールは題名に登場する役のこと。たとえば「ダイドーとエネアス」ではエネアス役。

海外では体当たりの挑戦
国内では楽しみを共有する気持ちで

 世界の音楽家が集結するクラシックの本場ドイツでソリストとして演奏活動を続けるのは、まさに武者修行。国内にある100箇所あまりの劇場がそれぞれに楽団を擁し、プロの音楽家たちがしのぎを削る環境です。また、そうした文化のなかで育ってきた聴衆も、プロへの期待が高く、厳しい目と耳を持っています。音楽家としての修練に加え、ドイツ語、フランス語、イタリア語の理解を深め、舞台芸術にふさわしい身体づくりも怠ることはできません。
 「厳しい環境にあって、音楽家一人一人が自分の個性と向き合い、それを発揮しているのが印象的でした」。技術を重視していたそれまでの歌唱から、「個の表現の仕方」

ドイツ・オルデンブルク州立歌劇場で上演されたグルッグ作曲「オルフェオとエウリディーチェ」のワンシーン。死の世界への門番カロンテ役を熱演する近藤さん。

「人への伝え方」に重きを置く新たなスタイルへ、近藤さんの演奏が変化していきました。「どんなに努力しても僕自身がドイツ人になることはできません。むしろ日本人であることを生かし、その特質とヨーロッパで培われてきた文化との融合を全身で表現しよう考え、アピールしたんです」。
 バリトンは人がしゃべる音域にもっとも近く、オペラでは人間臭い役どころを担うことが多いといいます。ダイナミックな歌唱表現のなかに繊細さや協調性が息づく近藤さんの演奏は高く評価され、古典から現代オペラまで幅広い曲目で、目の肥えたドイツの聴衆を魅了しました。
 留学を終えて帰国した近藤さんは、現在、東京を拠点に活動を展開しています。
 「ドイツでは何もかもが挑戦で、ひたすら夢中になって取り組んできました。日本では、聴衆のあたたかさが肌で感じられる分、ドイツの時以上の緊張を覚えますね」。
 日本人にとってやや敷居が高い印象のあるクラシック音楽を、親しみを持てる存在に変えていくのもプロの役割の一つと考え、昨今は演奏家と聴衆が近いライブ感覚のコンサートや、音楽を志す若者へのレッスンイベントなどにも積極的に取り組むことが多くなりました。ふるさと長野での演奏機会も増えつつあります。
 「長野の豊かな自然景観や、のどやかな農村風景は、ドイツ歌曲の歌詞に登場する風景に通じるものがあります。そんなふるさとで演奏できるのが、毎回とても楽しみです」。

身体そのものが楽器
負担をかけずに磨きをかけていく

声楽家にとっては、自らの身体全体が楽器。磨きをかけることと同様、メンテナンスやケアも非常に重要です。年々変化する繊細な“楽器”を、生涯にわたって生き生きと輝かせ続けるために、日々の生活を充実させる努力を「無理せず楽しみながら」継続しているといいます。
 「日本で何よりありがたいのは、街なかや公共の場で堂々とマスクを付けられること。海外ではマスクしているだけで怪しい人と思われてしまうので…」。そんなユーモアたっぷりの語り口にも、人間味豊かなアーティスト近藤圭さんの一端が垣間見えました。
 

 

コンサート情報
近藤圭さんの歌声を聞くことができるコンサートが開催されます。
2月28日㈰ 14:00開演
すざかバッハの会
リヒャルト・ワグナー 魅惑の世界への誘い第7回目
会場/須坂駅前 シルキービルホール(3F)
出演/近藤圭(バリトン)、山口清子(ソプラノ)、久元祐子(ピアノ)、礒山雅(司会と解説)
料金/当日券2,500円
問い合わせ/すざかバッハの会(TEL 026-248-5326 大峡)

4月9日㈯ 18:30開演
ハンブルクより 愛の便り 
~ドイツ・ハンブルクより、テノール歌手クヌート・ショッホ氏を迎えて~
全曲ブラームス  プログラム(「愛の歌Op.52」、「ハンガリー舞曲第5番」、他)
会場/北野カルチュラルセンター
出演/クヌート・ショッホ(テノール)、近藤圭(バリトン)、坂原美菜(ピアノ)、他
料金/3,300円
問い合わせ/北野カルチュラルセンター(TEL 026-235-4111)

 

長野市出身。声楽家(バリトン歌手)。国立音楽大学卒業、同大学院を首席で修了。新国立劇場オペラ研修所第9期生修了。ハンブルグ音楽院を最優秀の成績で修了。『ドン・ジョヴァンニ』タイトルロールでオペラデビュー以降、トウキョウ・モーツァルトプレーヤーズ定期公演、二期会公演、小澤征爾音楽塾、新国立劇場オペラ公演等で好演。日本初演の演目でタイトルロールやバリトン・ソロを務める機会も多く、日本のバリトン歌手のホープとして注目されている。2010年から5年間ドイツ・ハンブルグを拠点に国際舞台でも活躍し、好評を博す。長野市でも東山魁夷館『冬の旅』演奏会、2013年より3年連続でホクト文化ホールで開催の「年の瀬コンサート」ベートーヴェン『交響曲第九番』のバリトン・ソロを務めるなど活動を展開。現在東京都在住。二期会会員。

オフィシャルブログ http://ameblo.jp/k-kondo-nagano521-gesang/


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