CCI

   2011年7月号 No.756




瀬木 潔
株式会社長野放送代表取締役副社長
長野商工会議所常議員、情報文化部会長

昭和15年生まれ。東北大学文学部卒業後、昭和39年信濃毎日新聞株式会社入社。報道部長、取締役編集局長、常務、専務を歴任。平成18年株式会社長野放送取締役副社長、19年より代表取締役副社長に就任。他に信濃毎日新聞株式会社監査役、一般財団法人長野県バレーボール協会会長も務める。
  

  


過去の成功体験が通じない時代。
IT時代に相応しい情報の在り方を見極め
スピード感をもってチャンスを掴もう。


 情報文化部会では、進化著しいITに対応すべく、最先端の情報技術を学ぶ機会を折に触れて設けています。我々がこの時代の波をしっかりと捉えて生き残っていくには、まず従来の常識や生半可な成功体験を捨てることです。最先端の研究や仕事に触れることを通して、自らの殻を破り、経営感覚を磨き直すとともに、価値ある情報づくり、本物づくりにこだわるべきだと思います。

技術の最先端を学び、
次のチャンスを掴む


― 情報文化部会では、今どのような事業に取り組まれていらっしゃいますか?

瀬木 情報を取り巻く時代の変化に対応するため、研修会・勉強会を開催しています。部会の構成メンバーは、新聞・テレビ・広告代理店等メディア関連、情報・通信関連、印刷・出版関連など多岐にわたり、企業規模もさまざまですから、皆さんそれぞれ課題をお持ちです。一方で、劇的に進化するITへの対応など、我々にとって共通のテーマもあります。
今後の情報社会を、それぞれの企業が生き残っていく上で、どんな投資が適切なのか、先端技術をどう消化し、どう経営に役立てていくのか研究する必要があります。そこで、たとえばスマートフォンの普及で世の中の何が変わり、我々はそこにビジネスチャンスを見出すことができるか、検討するための材料をできるだけ分かりやすい形で提供することが、部会の使命だと考えます。
 具体的な活動として、昨年は、電気通信分野において世界をリードする独創的な研究をしている国際電気通信基礎技術研究所(京都市)を視察しました。今年も、電子書籍が持っているビジネスの可能性について、あるいはクラウドコンピューティングの導入が、経営合理化にどう貢献するか等について、部会の内外の専門家から話を聞いたり、研修会を実施したりしていきます。
 また、印刷関連機器の博物館をつくろうというプランもあります。ご承知のように、長野市は印刷・出版の集積地として一時代を築きました。明治以降、各時代に活躍した機械等を一堂に集め、先人たちの知恵の詰まった産業遺産、文化遺産として展示できないかというアイデアです。
 さらに、会議所内のメディア通信委員会、長野市のソフト産業協議会とも密接に連絡を取りながら、情報産業の発展に寄与していきます。
 ところで、当部会の「情報文化」というのは、とても素晴らしい名称だと思うのです。メディアが伝えるものだけが情報ではありません。たとえば、仕事帰りに行く飲み屋の、その雰囲気も情報の一つの形です。それがあるから、家で晩酌するより、小遣いを使ってまで外で飲んだ方がいいと思うわけです。ものづくりでいう付加価値もある種の情報です。そうした情報の文化を築こうというのですから、とても意義ある部会です。


常識や生半可な成功体験は
捨ててしまえ


― ITが劇的に進化する時代に対処するため、求められるものとは何でしょうか。

瀬木 まずスピードだと思います。我々が子供のころSF漫画に描かれていた世界が、想像以上の速さとスペックで実現しています。
情報産業に関わる経営者は、変化を敏感に捉え、消化し、速やかに適切な投資をする必要があります。
 かつてのアナログ時代には、情報化という名のバスに乗り遅れたとしても、次の便を待つ余裕がありました。しかし、デジタル時代は違います。今発車するこの便に乗り遅れたら、経営面で非常に大きなマイナスになるでしょう。経営者にはたいへんな時代です。
 
こんな時代にあっては、自分にとっての常識をまず疑ってみることです。成功体験を持っている人ほど、これまでの常識が本当に今の時代に通用するのか、慎重に検討してみなくてはなりません。むしろ、生半可な成功体験は捨てなさい、白紙にしなさいと言いたいですね。そうしないと、今からやってくる情報化の流れの中で生き残ることは、きっとできません。
 たとえば、テレビ業界について言えば、震災後の4月、5月で、地上波の月額売上が対前年比70〜80%にとどまったのに対し、BS放送は10〜20%伸びています。わざわざアンテナを付けたり、ケーブルテレビに加入したりしてまで、BSを視聴しないだろうという驕りが、地上波側にあったのですね。BSは今非常にいいコンテンツを揃えていますし、経営的にも伸びています。
 
テレビなどメディア関連に限らず、情報に携わるすべての経営者は、常識や成功体験に馴染んでしまった感覚に刺激を与えて、もう一度これに磨きをかけないと、次のビジネスチャンスを掴み損なうと思います。情報産業に関わる業態の垣根もなくなりつつありますから、なおさらです。

テレビは「ものづくり」産業だと
心得るべき


― 瀬木部会長が関わるテレビ業界が、現在抱えている課題について教えていただけますか。

瀬木 何より7月24日の地デジ化への対応です。長野放送の場合、同日正午をもってアナログ波を停波します。これまで折に触れお知らせをしてきましたが、停波した直後からかなりの問い合わせがあると予想されます。その対応をきちんと丁寧にやることが直近の課題です。
 地デジ化への対応は、テレビ業界にとって投資の大きなプロジェクトでした。とくに資金力に余裕のない民放ローカルは、各局とも苦労をしてきています。カメラだけでなく、ヘリコプターや中継車も、地デジ化へ対応したものに替えていくと、すぐに億円単位のお金が要ります。テレビ局は装置産業ですから、たいへんな経営負担です。
 まず7月24日を乗り切ること。実はその先に、本当の課題が待ち構えています。現在、テレビ局の売上は、キー局も含め減少傾向にあります。広告主は、広告の費用対効果にますます厳しくなっており、テレビCMは減ってきています。
 広告収入の減少は、2004年ころまずラジオで始まり、続いて雑誌、2006年ころには新聞にも波及しました。テレビでは、一昨年秋ごろから顕著になり、容易に回復するとは思えません。メディアの多様化に加え、テレビを見る人の減少傾向も背景にあると思います。地上波が以前よりは魅力あるメディアではなくなりつつあるのではないか、ということを、これに携わる人達は自覚すべきでしょう。ニュースならインターネットの方が便利だ、スポーツ中継も、ドキュメンタリーも、エンターテイメントもネットで見られる─皆さんそう考えているのではないでしょうか。
 
地上波テレビは、これから番組の質を上げていかなくてはいけない、ものをつくる力を上げていかなくてはいけない、私はそう考えます。新聞やテレビを情報サービス産業だと言う人がいますが、とんだ心得違いです。テレビは製造業です。いいものは売れる。そうでなければ売れない。なのに情報サービス業とはき違えているから、視聴者も広告主も、一種の違和感を持っているのではないでしょうか。これからのテレビはものづくり産業に徹すべきです。
 幸い地方のローカル局は、地域に根差し、郷土の歴史や伝統文化の礎の上に事業を展開しています。我々だからこそ手掛けるべきコンテンツを真摯につくっていけば、生き残ることができると私は思っています。


瀬木 潔さんの横顔
趣味は「街中探検」。早朝や休日の昼間、街が発する情報にアンテナを張りながら散策する。大型店の売り場巡りもとても勉強になるとか。

  




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