CCI

   2010年9月号 No.746




久保田 穣
東日本旅客鉄道株式会社 長野支社長
長野商工会議所常議員

昭和31年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、昭和54年に日本国有鉄道入社。62年東日本旅客鉄道(株)入社。その後、千葉支社総務部長、事業創造本部部長などを歴任し、平成21年6月より執行役員長野支社長に就任。
  

  


デスティネーションキャンペーンは
観光地信州の魅力を深掘りし
新しい価値を創造する大きなチャンスです


 今年の10月から3ヵ月間、全国のJR6社と長野県、県内の観光関係者や市町村が一体となって「信州デスティネーションキャンペーン」を展開します。観光を通じて信州を全国にアピールし、地域の活性化を図る絶好の機会です。
 そこで、今月号と来月号は同キャンペーンについて特集します。第1弾の今回は、JR東日本(株)長野支社の久保田穣支社長に、次回の第2弾は(社)信州・長野県観光協会の両角良昭専務理事にお話をお聞きします。

信州の魅力を深掘りする
キャンペーン


―― はじめに、信州デスティネーションキャンペーン(信州DC)とはどんなものかご紹介くださいますか。

久保田  デスティネーション(目的地・行き先)キャンペーンとは、都道府県が主体となり、JRグループが広告媒体の提供などを通して協力させていただく大型観光キャンペーンです。旧国鉄時代の昭和53年からはじまり、今回が120回目、長野県では4回目の展開となります。かつてのキャッチフレーズ「さわやか信州」は、お馴染みの方も多いかと思います。
 今回は「未知を歩こう。」がコンセプトです。
信州は歩くほど発見がある「未知なる道の宝庫」です。山歩きなど自然の中の歩きだけでなく、地域の歴史文化や生活に触れるまちなか歩きなども紹介しながら、未だ知られていない信州の魅力をPRしていきます。
 そもそも信州は観光地としての下地があります。東京生まれの私は、林間学校で軽井沢や霧ヶ峰、志賀高原を訪れ、スキー学校でも白馬に行きました。私に限らずかなりの人が、子ども時代から信州を訪れています。企業や自治体、大学の山荘や合宿地なども数多くありますし、都会の人の多くが信州に親近感を持っています。今回は、もともと観光地として知名度の高い信州の魅力をさらに深掘りすることが狙いです。
 具体的な企画としては、中山道や塩の道、戸隠古道などの街道歩き、あるいは井戸が多い松本の湧水巡りや、諏訪の酒蔵巡りといったまちなか散策など、地域の皆さんから推薦いただいた信州の魅力を幅広く発信していきます。
 JRもキャンペーン期間中、ハイブリッドシステムを搭載した新型リゾートトレイン「リゾートビューふるさと」を導入し、長野―松本―南小谷間でほぼ毎日運行します。また、善光寺平や棚田の眺望が見事な姨捨駅のホームには展望デッキを新設します。さらに信州DCと合わせ、JR東日本のシニア向け会員組織「大人の休日倶楽部」では安曇野と戸隠のCMを展開しています。


観光資源の棚卸と
戦略づくりに絶好の機会


― 県内から寄せられる期待も大きいのではないですか。

久保田  はい。DCが信州で展開されるのは12年ぶりのことですからなおさらだと思います。ただし、キャンペーンが寄与するのはあくまで一時的な効果です。私は
今回のキャンペーンがむしろ、今後も継続して何度でも信州に観光に来ていただく契機となるよう願っています。
 かつてスキーがブームだった頃、たくさんのお客様が信州にみえました。オリンピックの折もそうです。しかし、それは一過性の外的要因によるところが大きいですね。実のところ、信州そのものに魅力を感じて来てくださった方はどの程度いたのでしょうか。今回そこを真剣に分析して、また来ていただくための魅力づくりを地域を挙げてやることだと思います。
 先ほども触れましたが、信州は観光地として他を一歩リードしています。長野県の調べでは、2009年度の県内における観光消費額は3、349億円で、精密工業の売上高2、903億円、農業産出額2、759億円を上回っています。あるいは日経リサーチによると、長野県は観光地の満足度ランキングで全国7位です。上位の6つは、東京、京都、北海道、沖縄、九州ですから、その実力は相当なものです。しかし、今後他県が本気になって観光振興に取り組んだとき、たとえ一日の長があるとはいえ、信州もうかうかしていられません。危機感を持つことも必要です。
 ですからこの機会に、
もう一度信州のあらゆる観光資源について棚卸をしっかりやり、強み弱みを分析して、競合にどう対処していくのか戦略づくりをするのです。ひいてはそれが、2014年の長野新幹線延伸がもたらす環境変化に対応することにもつながるはずです。

エリア全体で価値を高め、
パイを増やす


― この信州DCを、さらなる観光振興のためのチャンスと捉えるのですね。

久保田 このタイミングを逃さず、観光客を誘致する継続的なシステムを築くことは、信州の観光産業にとって大きな意義があります。新幹線や飛行機がどれほど便利でも、それは人を運ぶ手段に過ぎず、観光の目的ではありえません。乗り物ファンでない限り、人はその土地にこそ魅力を感じ、旅の目的とするのですから。
 繰り返しますが、信州は自然も温泉も歴史遺産も、所与の条件で他の観光地をリードしています。また、他地域と比べて質の高い観光資源が密度濃く存在していることも特徴です。たとえば温泉は、数こそ北海道に次いで2位ですが、密度でいえば日本一でしょう。
 基礎はしっかりしています。あとは食事やおもてなしなどの質、2次交通の利便性やサービスなどでトータルにグレードを上げ、お客様に安心して心地よく旅してもらえる仕組みができれば、観光客は連鎖的に増えます。とくにこれからは、地域間・業界間の連携を強化してお客様満足度を高めていくことだと思います。
 その際、重要なのは発想の転換です。
限られたパイを奪い合う時代は終わりました。これからは、お客様のニーズをより広い地域でカバーすることを考え、エリア全体で価値を高めて、パイを増やすことに取り組むのです。
 こんな統計があります。観光地の再訪問意向ランキングで長野県は5位です。上位4位は、北海道、沖縄、京都、石川。石川県は金沢を中心に総合力があるのでしょう。だからといって、石川と競争したら長野は負けると考えたら駄目です。ここでも一緒に手を組んで、パイを増やす方向に発想を変えてみます。
金沢と長野が連携し、協力し合えば最強の観光エリアができます。もちろんライバルでもありますから競い合う場面はあるでしょう。しかし、一方でお互いに学ぶべきところは学んで、協力できるところはすればいい。観光とは常に「競争と協力」のバランスです。パイを増やすには協力をしなければいけない。北信と北陸までを大きな観光エリアとして考え、その価値をどう高めるかに知恵を絞るのです。
 これまで日本の経済は、自らパイを増やす努力をしなくても成長してきました。パイは外から与えられるものでした。しかしこれからは、自らパイづくりに真摯に取り組んだ地域だけが強くなっていくと考えられます。
 皆さんぜひ、自信とエネルギーをもって地域活性化と観光振興に取り組んでください。JRもできるかぎりの協力をさせていただきます。



リゾートビューふるさと
キャンペーン期間中ほぼ毎日、長野―松本―南小谷間で運行される。



久保田 穣さんの横顔
東京都出身で、長野へは単身赴任。休日を長野で過ごすときは、県内の温泉を巡られるとか。趣味はオペラ鑑賞など。

  




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