CCI

   2010年5月号 No.742




岩野 彰
株式会社岩野商会代表取締役社長

長野商工会議所常議員、中小企業政策委員会委員長、
長野商工会議所異業種交流研究会代表幹事
信越建設インテリア事業協同組合理事長、
(社)全国建設室内工事業協会理事など

昭和23年長野市生まれ。明治学院大学法学部中退。昭和48年株式会社岩野商会入社。56年取締役、63年専務取締役。平成5年より現職。
  

  


今、中小企業経営者が求めるのは
この国の将来像についての青写真であり
そこにチャンスがあるという期待感です


 長引く不況やデフレの影響で、中小企業経営者のマインドが落ち込んでいるのが気がかりです。緊急支援も大切ですが、政府は10年先20年先の明るいビジョンを示すべきです。行く先に光を感じることができれば、人は前を向いて歩けます。一方で個々の経営者は、長期的な視点で人を育てながら、これまでに増して生真面目に経営に取り組んでいくことだと思います。

危惧するのは
経営者のマインドの落ち込み


―― 岩野社長は、商工会議所の中小企業政策委員長でいらっしゃいます。現在の長野市の中小企業の状況についてどうお感じですか。

岩野 長野市に限らず地方全般に言えることですが、大変厳しい状況にあります。私が危惧するのは、景気が悪いために経営環境が厳しいことはもちろんですが、中小企業事業主のマインドが落ちていることです。
 一方で、変化が激しく、これまでの成功体験が通用しない混沌とした時代ですから、
新たなビジネスチャンスを掴もうと起業される方にとっては、挑戦しやすい環境にあるかもしれません。彼らが金融支援を受けられるかという問題は残るものの、地域でも新しい芽が生まれる可能性はあります。
 より深刻なのは、既存の商売を営んでいる中小企業です。事業者のマインドに最も大きく響いているのは現下のデフレです。価格の下落が、お客さまの要請によるものなのか、そうではなく業界内の競争によるものなのか、多くの経営者が疑心暗鬼になっているのではないでしょうか。値下げすればその場は売れる。しかし、これは本当にお客様が望んだことなのか分からない。いつまで価格競争が続くのか先も見えない。わが社の体力は持つだろうか。とはいえ今を生き抜くために、価格競争に身を投じざるを得ない状況でもある。そう感じている経営者は多いと思います。
 また、バブル崩壊後、金融機関による融資や債務免除等が大手志向になっていることも、中小企業経営者のマインドに少なからぬ影響を与えています。つまり、自分たちは金融機関から相手にされていないのではないか、制度があっても審査などが煩わしかったり、自分たちの商売の規模では壁があるのではないか、そういった不安です。
 中小企業経営者とて下ばかり向いているわけではありません。夢もあります。しかし、たとえば春闘のニュースで大手企業の妥結額を聞くとわが身との差を思わずにはいられません。ベアがあるなしの問題ではなく、そもそも基準値が違うからです。従業員も寂しい思いをするでしょうし、経営者自身も会社のために懸命に働いてくれている社員に十分に報いていないのではないかと切なくなる。前を向こうとしても、そんな折々で気持ちが削がれてしまいます。


政府はこの国の
明確な将来像を示すべき


― 商工会議所では、行政とも連携してさまざまな中小企業政策を実施していますね。

岩野 私はい。主な事業としては、まず金融経済対策、緊急保証制度等を活用した金融円滑化、金融機能の維持強化、次に創業・経営革新・新連携・農商工連携による活力ある中小企業の経営サポート・発展育成、そして事業承継・早期転換・再挑戦支援窓口事業などがあります。さらに融資制度もこの4月からより活用しやすいものになりました。みなさまお気軽にお問い合わせください。
 ところで、現在政府が取り組んでいる金融支援などの政策は確かに大事なことで、商工会議所としてもより多くのみなさまにご利用いただけるように斡旋しています。ただし、近視眼的な救済策はカンフル剤にはなっても、中小企業の長期的な自立、将来にわたる発展にはつながりにくいことも事実です。これは一経営者としての意見ですが、未来への指針が示されないまま、場当たり的な政策を実施してもどれほどの効果があるのでしょうか。加えて、今年打ち出された中小企業対策が、来年も続くのかさえ分かりません。
 
経営者のマインドにいちばんの薬になるのは、国が日本の10年、20年にわたるビジョンをキチンと示すことです。ビジョンとは、経済産業政策に限らず、この国の将来像という意味です。実現可能性が100%である必要はありません。こんな日本になるんだという希望あるビジョンと、これへ至るロードマップを示し、そこへ個々の政策を位置づけてこそ意義があります。この国の行く末が見通せないから、経営者は自社の長期計画も立てられないのです。
 今は、中国や韓国など近隣諸国が、あらゆる面で力をつけているのにただ戦々恐々とするばかりです。1年返済を待ってもらっても、1年後にどうなるかが分からない。いろいろ言ってみたところで、自分の会社のことは、最後は経営者自身の責任です。それは経営者も承知しています。だから、自分の責任で自分の会社を経営する以上、その覚悟ができる環境を整備してほしい、政府にはキチンとした成長戦略を描いてほしいというのが経営者の本音です。


中小企業にとって
「人」こそがすべて


― 利用できる支援策は積極的に活用する一方で、企業の自助努力でできることにはどんなことがありますか。

岩野 
まず経営に対する生真面目さが大切だと私は思っています。愚直と言われてもいい、地味でも構わない、お客さまに、自分たちの商品に、仕事の仕方に、生真面目に相対すれば、必ず何かが見えてきます。次に、中小は大手に比べてデメリットばかりではないと再認識することです。大手のように組織が肥大化していないので、フレキシブルな経営ができます。判断もスピード感があります。そのメリットを生かすべきです。例えば他業種との連携でこれまでになかったビジネスを創出する際にも、中小の機動力は優位に働くはずです。
 そして何だかんだと言っても、中小企業にとっていちばん大切なのは人ではないでしょうか。業態にもよりますが、特に私ども工事業に携わる企業は人が命です。施工することがすなわち商品ですから、専門集団として、常に高度な技術と知識を集積し、お客さまのご期待に応え続けることが使命です。技術向上は永遠に追求すべきテーマであり、岩野商会は人を育てる場としての企業でありたいと願っています。当社では「岩野建設専門技能訓練学園」(厚生労働省認定職業訓練校)を設け、当社に入社した1年生社員の育成をしています。また、全国の業界の技能グランプリ等に積極的に参加させ、各々の技能の達成度の確認と、さらなる技術研鑽の契機としています。
 
人材育成は、短期的にはコストが掛かるように思えますが、必ず実りとなります。人を育てることは、企業の永続にとって欠くべからざる投資だと私は信じています。



岩野 彰さんの横顔
趣味はゴルフ。地域づくりのNPOにも参画し、「生活者目線で地方独自のまちづくりをするには今がチャンス」と語る。

  




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