CCI

   2009年 8月号 No.733

「人」が手がける、心が通う、
 そんな仕事を伝えていきたい
横田 栄一さん

建具(組子細工)職人・栄建具工芸代表
 全国建具組合連合会副会長、全国伝統建具技術保存会会長






 「建具はあくまでも”使う人“のためのもの。時代がどう変化しても、心の通う手仕事をし続けたい」と、職人らしいこだわりを見せる横田さん。作業の一つひとつに、そして後進の育成に、その思いを注ぎ込んでいます。


30代、40代の「必死」が今に生きる


▲「麻の葉」「桔梗」「まんじ」「亀甲」など、伝統の意匠を基本に、木の地色を生かした精緻なデザインがクギも機械も使わずに構成されていく。
 爪の大きさにも満たない木片を一つひとつマスに埋め込んで、繊細なデザインを構成していく「組子細工」。横田さんが手がける組子の建具は、欄間にしろ、書院の障子にしろ、装飾天井や間仕切りにしろ、細工の精巧さとリズム感のあるデザインが、見る人を圧倒します。江戸時代の職人が考案した伝統の意匠をベースに、木材の地色の差を巧みに生かし、下描きもなくつくり上げていくそのわざも、完成した細工も、まさに芸術の域ですが、横田さんは自らが「職人」であることにこだわります。
 「組子や建具は、建築に対する施主さんのこだわりをかたちにするもの。芸術作品ではなく、あくまでも建てる人、使う人のために、職人として腕をふるう”仕事“なんです」
 仕事だからこそ、その作業には意固地なまでに妥協がありません。自分の技術をもっと高めよう、もっと精緻に、もっと美しく…そう思い続け、ひたすら組子に打ち込んだ30代、40代の経験が今に生きていると、横田さんは言い切ります。
 「最近は何ごとにつけシンプルがいいと言われますが、やりすぎるくらいやって初めて本質的な”シンプル“のよさにたどり着く。それを経ずして、簡単=シンプルと判断するのは、安易に過ぎる気がします」
 その言葉には、つい近道を選びがちな昨今の風潮への憂いも込められているようです。

文化財に見る昔の人の技術と心


▲工場は伝統の道具類の宝物蔵といった趣。壁にも、引き出しの中にもさまざまな道具がびっしり。それらを自在に使いこなすわざはみごと。
 近年、受注が増えているのが、寺院、城郭、旧邸宅などをはじめとする文化財の修復です。
 「文化財を見ると、昔の人がいかに建物にこだわりを持ち、いい職人を集め、いい仕事をさせていたかが手に取るようにわかりますよ」
 伝統の工具を使い分け、クギや機械に頼らない昔ながらの仕事が身上の横田さんですが、古建築の修復に携わるようになって、さらに新たな知識や工法、そして精神を学んでいると、目を輝かせます。

職人のわざと意気込みを
次の世代へ


 横田さんの仕事は、地元篠ノ井でも非常に愛されています。木造建築の魅力を伝えるために力を借りたいという建築会社や、貴重な伝統のわざを山車や屋台に残したいという地域の人々からの依頼を受けることも少なくありません。それが若いスタッフの励みにもなると、誠心誠意取り組む横田さん。昔と違い、施主と職人の接点が少なくなった建築の世界ですが、地域の人々とのこうしたやりとりは、心が通う”職人の仕事“を伝えていく機会になると、笑顔を見せます。  横田さんは「全国伝統建具技術保存会」(文化庁認定の技術保存団体)の代表も務めています。孤高の職人として一途に身につけてきた技術と精神を、全国の後進に惜しみなく伝え、職人として育てていく新たな役割にも意欲的に取り組む毎日です。



社  名:栄建具工芸
創  業:昭和41(1966)年設立
連絡先:TEL 026-292-1593


小諸の江戸指物師(和家具職人)の長男として生まれ、16歳で建具職人の親方に弟子入り。8年の修業の後、組子(くみこ)の技術を学び、25歳で独立。伝統の技に裏打ちされた精緻で美しい建具が高い評価を得、「全国建具展示会」で内閣総理大臣賞を4回受賞。1988年「現代の名工」に選ばれる。2008年、代表を務める「全国伝統建具技術保存会」が国の選定保存技術「建具製作」の保存団体に認定された。近年は全国各地の文化財修復でも手腕を発揮。


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