CCI

   2009年7月号 No.732




夏目 潔
株式会社夏目代表取締役社長

長野商工会議所メディア通信委員長、協同組合長野アークス理事長、
学校法人平青学園会長、長野市教育委員、
NPO法人長野都市経営研究所Strategy2014研究部会部会長ほか

昭和26年長野市生まれ。明治学院大学法学部卒。日本ユニバック(現日本ユニシス株式会社)を経て、昭和52年株式会社夏目に入社。平成3年より現職。また同社関連会社の山甚信濃被服工業株式会社、信濃衣料株式会社のほか、株式会社しんきょうネットでも代表取締役社長を務める。
  

  


今後6年間で都市としての魅力を
いかに高めることができるかが
長野経済の課題です


 長野商工会議所を中心とする御開帳奉賛会のPRが奏効し、御開帳は過去最高の参拝者で賑わいました。一方で、観光の広域化が進んでいることも事実です。今後、新幹線が北陸まで延びれば、観光の形態はもっと様変わりすることでしょう。次の御開帳までに、長野市の都市としての魅力を高め、観光客が滞留したい街づくりを進めることが、あらゆる商売に携わる者の最大の関心事になると思います。

本来長野経済は、
内需が弱く県外資本頼り


― 夏目社長は、昨今の長野経済の状況をどのようにご覧になりますか。

夏目 現在の長野経済の閉塞感は、昨年来の世界同時不況だけをもって、語り得ないと私は思います。例えば、現在テレビコマーシャルをはじめ広告収入が落ち込んでいると言われますが、長野においてそれは、決して直近の現象ではなく数年来継続しています。実は長野の購買力が低く、広告効果が期待できないために、大手広告代理店がナショナルスポンサーの広告を長野の媒体に配分することにずっと消極的なのです。
 これは長野県の産業構造に要因があります。その経済を支える主な柱は、輸出産業と公共土木と観光です。要は長野経済は内需が弱く、県外資本に頼ってきました。そうした状況において、まず公共土木が、次にスキーなど観光産業が減退し、そして今、輸出産業がダメージを受けています。
 今後の長野経済を考えるとき、ものづくり産業の再起に期待する一方で、もともと内需が底堅くないわけですから、
外から人とお金をいかに取り込むかに知恵を絞ることが重要だと思います。
 今回の御開帳は、
奉賛会をはじめとするPRが奏効し、過去最高の673万人の参拝者がありました。とりわけ午前中の参拝が多かったようです。これは前回までの御開帳とは違った傾向です。お朝事の知名度が増したことも理由のひとつとはいえ、高速交通網の発達により、観光客の移動がより広域化したとも考えられます。では、その日の午前中に長野を訪れ善光寺を詣でた観光客は、いつまで長野市とその周辺に滞在したのでしょうか。そこが問題です。
 小布施など地域連携の効果が現れた地域もあります。しかし、例えば高速道路料金の値下げは、長野に滞留することよりも、目的地を複数にして広域な旅を楽しみ、善光寺参拝もその目的の一つとして位置付けることを、観光客に選択させたのではないか。私はそれを懸念しています。
 また、全国的な傾向として、団体旅行の減少、旅館よりもシティーホテル、ビジネスホテルの利用者が増えていること、一人当たりのお土産購入額や買い物の仕方の変化等、旅行者ニーズが変わってきていることにも注目したいと思います。

今から、滞留したいと思える
都市づくりを


― そのご懸念は、長野新幹線が金沢まで延伸することとも無縁ではありませんね。

夏目 ええ。次の御開帳の折には、
観光の広域化はさらに進むものと考えられます。長野商工会議所も特別委員会を設置して真剣に取り組んでいますが、私はNPO法人長野都市経営研究所において、新幹線が金沢まで延伸する2014年までに、長野市でどんな街づくりを進めたらよいか、皆さんと一緒に勉強させていただいています。会員の一致するところは、長野市が都市としての魅力を高めることが大切だということです。
 観光の広域化とは、つまり短時間でより広い地域を巡ることができるということです。可能性として、長野市とその周辺での滞在時間が短くなり、極端に言えば、旅の通過点になってしまうことも考えられます。今後御開帳の経済効果を最大限に波及させるには、ここに滞留したいとお客様に思っていただけるような街づくりが必要です。
 そのために既存の資源に磨きをかけることも重要ですが、さらに大切なことは、今後ライバルとなる金沢市に見習い、
新しい価値を都市に埋め込んでいくことです。金沢では、兼六園をはじめとする歴史遺産だけに頼ることなく、金沢21世紀美術館のような別の視点の価値を付加し、都市としての魅力を常に向上させています。文化や食の分野でも、観光客にとって金沢はたいへんチャーミングな街で、ぜひ滞在したいと思わせます。
 まずは地域のいろんな分野の方々が、
長野市として誇れるものを、自分の身近なところから創り上げていくことだと思います。街づくりは、その地道な作業の積み重ねです。それが今後6年間の私たちの課題ではないでしょうか。
 これは観光産業だけでなく、地域経済全体の問題です。今後どんな分野も量的拡大は望めません。しかし座して待つわけにもいきません。われわれ卸売業も同様で、情報の付加やキャッシュアンドキャリー、ネットビジネス、他分野への参入などさまざまな工夫を凝らし、生き残りに必死です。しかし、どんな商売にとっても何よりの薬は、長野市が都市として活力づくことです。とりわけ地元小売業の皆様に頑張っていただきたいですね。

遊び心と、データを分析する
冷静さがカギ


― 都市としての魅力を備えるために、ヒントあるいは指針になることはありますか。

夏目 まず
進取の気概です。歴史や伝統だけにとらわれず、新しい価値を創ることにもっと能動的になることです。新しい価値も継続すれば伝統になります。長野びんずるがいい例です。
 次に
物語性です。世界遺産の首里城は、半世紀前に再建されたもので、建物としては新しいのですが、琉球王朝の存在と沖縄戦の悲劇という物語があるために、多くの人をひきつけます。今度の御開帳でお朝事が人気だったのも、毎日欠かさず行われる善光寺の日常行事という物語が、人を惹きつけたのではないでしょうか。
 そして、とっつきやすさです。今話題のB級グルメは、庶民がリピーターとして何度も体験できるから人気なのです。宇都宮餃子も博多モツ鍋も、地元の人がしょっちゅう食べているものですよね。食も含め、そうした
地元文化をもう一度見直すことも大事だと思います。
 すべてに通じることは、
遊び心とデータを見る目がカギになるということです。観光に来る人は遊びに来るのですから、その心理を掴むには、自ら外へ出て大いに遊び、いろんなものを体験した方がいいです。また、世の中の現況を表すデータに敏感で、これを冷静に分析することができれば、ニーズの変化を的確につかみ、速やかな対応をすることも可能になります。
 長野経済はきっと活気づくと私は信じています。




夏目潔社長の横顔
プライベートでも好奇心旺盛で能動的。旅とB級グルメを愛し、現在はモツ料理に注目。読書も趣味で、お気に入りの作家は浅田次郎氏など。

  




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