CCI

   2009年4月号 No.729




中嶋 君忠
(株式会社中嶋製作所代表取締役社長
長野商工会議所篠ノ井支部長、常議員)

昭和15年長野市生まれ。明治大学政経学部経済学科卒業後、昭和37年青木電器工業に勤務し、40年合名会社中嶋製作所入社し、社長に就任。48年同社を株式会社中嶋製作所に組織変更し、代表取締役社長に就任、現在に至る。

  

  


人を大事にし、分相応を知る
日本的経営の良さを見直すべき時にきています


 百年に一度とも言われる不況の嵐が吹き荒れるなか、日本の企業は、今その経営の在り方を問われているのではないでしょうか。中嶋製作所は大きな企業ではありませんが、畜産機器の分野で幸い高いシェアと売上を維持しています。私が経営で肝に銘じてきたのは、人を大事にすること、分を知ること、積善福徳、報恩感謝など、ひと昔前の日本企業では当たり前だったことです。

篠ノ井の獅子舞で不景気を振り払う

― 今年の御開帳には、篠ノ井の大獅子が奉納されます。商工会議所篠ノ井支部長としてどんな思いでいらっしゃいますか。

中嶋 まず、景気悪化で沈滞したこのムードを払拭するのに一役買うことができたらと思います。市無形文化財にも指定された篠ノ井の大獅子は、そもそも昭和初期の大不況の折、地域の若者がまちを活気づけ不景気を振り払おうと手作りし、練り歩いたのが始まりです。ですから、今回も大変いい機会を頂戴したと思い、長野市全体の景気回復に繋がればと願っています。
  また、篠ノ井地域にとっても大きなチャンスです。長野市との合併以来、篠ノ井は独立の気概をなくしてしまったようです。御開帳本番だけでなく、その準備作業にもなるべく多くの人にご参加いただき、もう一度地域の連帯感と活力を取り戻したいものです。
  ですから御開帳には、普段獅子舞に関わっている内堀や芝沢の人ばかりでなく、地区や年齢、性別に関係なくオール篠ノ井が1つのチームとなり参加します。当日は千人に上る皆さんが貸切列車で長野へ押し出します。そして、あの見事な大獅子や神楽保存会のメンバーが、子どもたちのマーチングバンドを先頭に末広町から山門まで練り歩きます。皆さんぜひ楽しみにしていてください。

同じ技術を使い、
複数のチャンネルを持つ


― その篠ノ井にあって、御社は全国に名だたる畜産機器メーカーとして高いシェアを誇っています。中嶋社長が経営において心がけていらっしゃることは何でしょうか。

中嶋 まず人を大切にするということです。私が父を継いで当社の代表となったのが25歳の時でした。当時畜産業界は不景気の真っ最中でした。「たとえ不景気でも人員削減は絶対してはならない」と父から教えられました。状況が厳しいなら、まず役員報酬を見直す。コスト削減に真剣に取り組む。それでも足りなければ、従業員にも賃金カットをお願いする。社員の首を切るのは、万策尽きた末の最後の手段です。どんなに苦しい時も、みんなで我慢して乗り越えていく、それが日本的経営の良さだと思います。そんな風土があったせいか、当社は40年前から定年は65歳です。
  次に先手必勝ということです。うちは初めケージ等鶏卵に関わる製品が主力でした。しかし、卵の相場に受注が大きく左右され、将来の展開に不安がありました。そこで新しい産業のブロイラーの自動給餌装置を独自開発し、さらに豚の自動給餌装置も発売しました。こうして次々と新製品を投入し、さらに特許を取得することで、市場優位性を維持しています。競合先と同じ事をしていたら、いずれ価格競争になります。やはり一歩先を行くオリジナリティが必要なのです。
  先んじるためにはいいアイデアをすぐに取り入れることです。当社では、競合先には決して負けない営業地盤があり、アフターケアに万全を尽くしています。そのサービスを通じてお客様から上がってきた声に耳を傾ければ、市場のニーズが見えてきます。そして、次の製品開発に繋がっていきます。同じ技術を使って、違うチャンネルの製品を複数持てば、最小限の開発コストにより、高確率でお客様からの支持をいただけます。
  もうひとつ大切なことは、分相応ということです。当社なら従業員数100名が適正規模です。それ以下では仕事が効率的に回らず、以上では固定費が経営を圧迫します。それは長い間の経験から感じました。そもそも受注の多寡で人員を調整するから、今回の非正規社員切りのような問題が起きます。それに中小企業の場合、一度人員整理をしたら、当分人は来てくれません。事業展開についても、自社に分不相応なものに手を出すべきではありません。先ほどもお話しした通り、同じ技術をどう別の形に生かすかをまず第一に考えるのです。
  売上や利益についても、飛躍があれば反動もあります。だから当社が目指すのは安定経営です。たとえ地道でも継続することにこそ企業の価値があると私は思います。

感謝の気持ちはすべてに通じる

― 人を大事にする、あるいは分相応といった経営哲学は、今後見直されていくでしょうか。

中嶋 そのためには、今私たち日本人が実はどれほど恵まれているか気づくことも必要かと思います。消費税引き上げが議論に上っていますが、ヨーロッパ諸国に比べて日本の消費税率は極端に低い水準です。それでも生活が豊かだったのは、赤字国債が累々と発行されてきたからです。これまで、国民は痛みを知らぬまま贅沢をしてきました。世界中で1千兆円を超える赤字国債を発行している国は日本以外にありません。いつしか日本人は、もったいないとか分相応という精神性を忘れてしまいました。
  また、日本人のコスト意識が非常に近視眼的になっていることが心配です。たとえば昨年春の暫定税率期限切れによるガソリン税騒動がいい例です。仏、独、英が220〜240円の時に日本が120円で、世界で8番目に安いというのに10円上がるか下がるかで大騒ぎ。マスコミもいけないが、国会の空転で大変な国費の無駄遣いをしました。日本も200円位にして、ガソリン税を一般財源化し、福祉や医療、教育に充てたり、消費税の値上を抑える。そうすれば、省エネ用機器の開発が促進され、CO2が減る、環境にも産業にもプラスになります。また、赤字企業の経営者が数百万円以上の外車に乗っているのは、分相応の自覚がなさすぎる。その分従業員に回すべきです。そうすればみんなから信頼されます。
  これから日本の経済や社会が力強さを取り戻すためには、教育の果たす役割が大きいと思います。私が分相応と並んで好きな言葉に、積善福徳、報恩感謝があります。家庭をはじめさまざまな場面で、もう一度教えてほしいことです。とりわけ感謝の気持ちをもつことはすべてに通じます。会社での教育なら、朝礼の時間をもっと有効に使ったらどうでしょう。些細なことに見えて大事なことに皆が気づくことで、仕事への取り組みが変わり、やがて会社の業績にも好影響を与えると私は思います。




中嶋社長の横顔
写真の腕前は、駅や病院など公共施設に請われ展示されるほど。休日、時間ができると奥様と撮影旅行に出かける。年に1度は海外を旅し、カメラに風景を収めるのだとか。男声合唱団にも所属する。

  




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