CCI

   2008年10月号 No.723




市川 浩一郎(不二越機械工業株式会社代表取締役社長/長野商工会議所会頭代行・松代支部長)
昭和15年生まれ。日本大学理工学部電気工学科卒業後、北辰計装株式会社に入社。昭和43年不二越機械工業株式会社に入社し、63年代表取締役社長に就任。現在に至る。
不二越機械工業は、半導体素材を「切る」「磨く」技術を追求する超精密加工機械メーカー。とくに、ポリシングマシンは世界のトップシェアを誇る。
  

  


企業経営も地域振興も、
選択と集中による
付加価値の創造を図るべき


不二越機械工業は、半導体製造工程のニッチな部分で技術研鑽に努めてきました。企業の価値は、市場を見極め、そこに経営資源を集中し、どれだけ付加価値が創造できたかで決まります。地域振興の課題も同様で、いかに世の中に価値あるブランドを創出するかだと思います。

企業の価値は付加価値の
創造にある


― 市川社長が企業経営において日ごろ大切にされていることは何でしょうか。

市川 まず、当社は基本方針に「五つの責任」を掲げており、これを果たすべきだと考えています。第一にお客様に対する責任、第二に永続する責任、第三に協力企業に対する責任、第四に社員に対する責任、第五に社会に対する責任です。
  その前提に立ち、私どものような中小の装置メーカーが生き残るために、できるだけニッチな市場に的を絞っています。大量生産が可能なものは、資金も人材も豊富な大企業が圧倒的に優位です。大企業が規模のメリットを見出さないニッチな分野に、我々の活路があるのです。
  私は、会社の規模を大きくするつもりはありません。会社はできるだけ小さくし、社員の幸せが実現できればいいと思っています。だから株式上場は考えておりません。上場企業の場合、会社は株主のためにあると言われますが、汗水流さない株主のために、社員が苦労を強いられるのはおかしいですよ。
  また、当社が携わる半導体産業は日々進歩していますから、常に技術を先取りできるよう、当社の力だけでは足りない基礎研究などについては、大学の知恵をお借りしています。これまでの取り組みのすべてが商品化につながっているわけではありませんが、産学連携を契機に人の交流が始まり、人材確保にもつながることは、大変大きなメリットです。
  規模を拡大しない理由には、もうひとつあります。企業の大きさは、トップの人間性以上に大きくすべきではないと思っております。代表者の責任が及ぶ範囲が、すなわちその企業の大きさです。
  そして、そもそも企業の価値を規模の大小で測るべきではないと私は考えます。企業の価値とは、いかに付加価値の高いものを生み出せるかにあります。当社も次の付加価値を生むために、半導体装置以外の分野で事業確立を目指していますが、その際は「りんご畑にバナナを植えるな」が鉄則です。ターゲットは、あくまで今まで培った技術の延長線上にあります。

ものづくりのブランド化で
人材誘致を


― 一人の経営者として、長野市の産業振興はどうあるべきだとお考えですか。

市川 産業をPRするためには、何かキャッチフレーズが必要です。そこで、地域の産業のブランド化を図ってみてはどうでしょう。幸い長野地域には、信州大学工学部も国立長野高専も長野県工業技術総合センターもあります。こうした知を活用して、地域の産業の象徴となるようなブランドをつくるのです。
  私の夢は、善光寺平のセンサーバレー化です。信州大学では、多くの先生方が、センサーの材料、応用技術、システム開発などの研究に取り組んでいます。私は、そうした先生方と、我々中小企業が参画する研究会の設立を提案しました。今後ここから「センサーのまち長野」を売り出していきます。まだスタートして2年ほどのプロジェクトですが、将来は第二のシリコンバレーを目指します。シリコンバレーのあるサンノゼは、もともと数社のベンチャー企業が集まる田舎町でした。ところが、ここに次第に技術が集積し、やがて世界に冠たる半導体技術の発信基地となり、結果として大企業も集まってシリコンバレーを形成したのです。
  確かに大企業の誘致に成功すれば、自治体の税収は増えます。しかし、一方で中小企業の人材は、その大企業に奪われかねません。私は、長野市がやるべきことは人材誘致だと考えます。センサーに関する研究者を連鎖的に呼び込み、長野市をセンサー技術の一大集積地にしましょう。50年タームで考えたとき、こちらの方が、自治体にとっても、既存の中小企業にとっても、必ずや大きなメリットをもたらします。
  もうひとつ、毎年10月に開催している産業フェアin善光寺平も、産業振興にとって貴重な機会です。実は、センサーバレーのアイデアも、このイベントがきっかけで生まれました。
  同フェアには主に二つの狙いがあります。まず、地元ですばらしい固有技術を有する中小企業のマーケティング活動です。次に、優秀な人材を確保したいと願う企業と、学生さんとのお見合いです。また、工業だけでなく、農業や商業も含めた産業フェアですから、地域産業全体の活性化になると考えています。

観光振興も選択と集中が肝心

― お膝元の松代の観光振興についてはいかがですか。

市川 エコール・ド・まつしろは大変すばらしい企画でした。これに加えて私が提案したいのは、松代のシンボルとなるお土産品や食を創造することです。旅には「見る」「買う」「食べる」の3要素がありますよね。「見る」に関して松代は、海津城、真田邸、松代大本営などの史跡に恵まれています。しかし、「買う」に関しては若干弱いようです。先ほどのブランド化の話と同様、松代といえばこれというお土産がほしいですね。
  また、「食べる」についても、宇都宮の餃子や富士宮の焼きそばのように、地域に特徴的なものでありながら、若者がターゲットとなる食を掘り下げてみてはどうでしょうか。たとえば、地元の食材を使った高級イタリアンを、古民家で提供するのも一案です。
  これまで長野市は、松代の観光振興に相当の力を注いでくれました。エコール・ド・まつしろが成功したいちばんの要因は、長野市が思い切った予算措置をしたことにあると思います。観光振興に関しても、満遍なくばら撒く時代は終わりました。選択と集中により、的を絞った投資をしてこそ効果があるのです。



市川社長の横顔
趣味は、ジャズやクラシックの音楽鑑賞のほか、小学生のときに始めたバイオリン、大学時代に覚えたウクレレ、ギターなどの演奏も楽しむ。

  




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