CCI

   2008年5月号 No.718




新世紀への提言




藤崎 慎一
(地域活性プロデューサー)
 (株)地域活性プランニング代表取締役。86年中央大学卒後、(株)リクルート入社。住宅情報事業部配属。99年地域活性事業部商品開発Gマネージャーとして、観光振興をはじめ、雇用・定住・教育など地域活性に関する企画・プロデュースに従事。その実績から、中央官庁、都道府県等の様々な委員を歴任。03年(株)地域活性プランニングを設立。企業コンサルタントを主業務とする一方、そのノウハウで全国各地の地域活性事業を実践。また、国内初のロケ地情報誌『ロケーションジャパン』の発行も行っている。
  

  


地域活性化には、
自分で考え、行動し、
責任を取る覚悟が必要


 地方経済は疲弊したままこれといった特効薬を見出せず、都市との格差は広がるばかりだ。地域活性を叫んではみても、成功したケースは稀で、ほとんどの地域がまちおこしに頭を抱えている。うまくいかない原因はどこにあるのか。
 地域活性プロデューサーとして、富士宮市、伊東市、浜松市、伊勢志摩、長崎県などでのプロジェクトのほか、全国各地でロケ誘致によるまちづくりを進めている株式会社地域活性プランニング代表取締役の藤崎慎一氏に、地域活性化を成功させるポイントについてお聞きした。


「気づき」には
「よそ者、若者、ばか者」が不可欠


― 藤崎さんは、地域の活性化には何が必要だとお考えですか。

藤崎 当たり前のように言われていることですが、自立することだと思います。自分で考え、自分で行動し、自分で責任を取ることです。

― 活性化の材料は、製造業でも、観光でも、農産物でも、何でもよろしいわけですね。

藤崎 おっしゃるとおりです。

― 実際にはそれがうまくいかないケースが多いのはなぜでしょう。

藤崎 最後の最後で誰かに頼ってしまうからです。私は、地域の「強み」を見つけるための気づきには、「よそ者、若者、ばか者」の三者が必要不可欠だと考えます。地元でまちづくりに信念を持っている人は「ばか者」、年齢を問わず行動力のある人たちは「若者」、地元とは縁のない第三者が「よそ者」です。自立の意志はあっても、よそ者のアドバイスに頼ってしまうと、うまくいきません。私も無責任なアドバイスはしないようにしています。誰に向けて、何のために、何を、どんな役割分担でやるのか、その整理作業を私が、そして地元の方々に主体となって考えていただきます。ビジネスの世界では、自分がよいと思ったプロジェクトは、自分で責任を取りますね。地域活性化も同じです。最後まで自分たちのプロジェクトに責任が持てる人たちが取り組んでいる場合は、成功しています。

― 民間がまちおこしの主体となる場合は、確かに成功例が多いです。しかし行政などが絡むと、住民も行政を頼りにしてしまいがちです。また、行政の担当者も定期的にシフトしますから、長期的な責任は誰も取らなくなってしまいます。

藤崎 第三セクターなどもいい例ですね。また、頼ってしまうのは、行政ばかりではありません。全国の商店街を見させていただくと、ほとんどの商店主の方々が「TMO(タウンマネジメントオーガニゼーション)が何もやってくれない」と口にします。経営資源に限界があることは分かりますが、自ら工夫する努力が足りません。TMOに期待し、一過性のイベントに期待し、あとは経営資源がないからと諦めていたのでは、活性化するはずもありません。

フグのブランド化に成功した浜松

― 藤崎さんが携わって地域活性に成功した事例をお聞かせください。

藤崎 たとえば静岡県浜松市周辺の環浜名湖地域での官民一体のプロジェクト「浜名湖えんため」の活動です。浜名湖周辺をよくしようと地域の人たちが立ち上がりました。チームは、地元の観光業者、農業・漁業関係者、行政や商工会、観光協会で構成されています。彼らの勉強会に私も参加して、地域の強みは何か考えるワークショップをしました。浜名湖の強みといえば、やはりウナギです。逆に弱みは、ウナギしかないことです。そこで、弱みをカバーする方法を考えたところ、遠州灘で獲れる天然トラフグを活用できないかという話が出ました。大規模な加工場やブランド力がある下関にこれまで送っていた地元のフグを、地産地消にしてブランド化に成功したのです。このチームが素晴らしかったのは、フグの成功を契機に自分たちのまちの資源を見直し、活性化対策の役割分担をきちんと決め実践する中心メンバーが固まっていったことです。

― 地元で実際に生活を営んでいて、今後も何十年と同じ土地で暮らしていく人が中心にならないと、地域おこしは成功しないのでしょうね。

藤崎 そうですね。さらに、浜松が成功した要因には、浜松のUターン率が高かったことも挙げられます。外から見て自分たちの土地の良さに気がついた人間が、まちおこしの中心にいるのです。地元だけでやっていると限界があると思います。とかく地元の人だけでやると自己満足で終わってしまうからです。
 地域活性化を何のためにやるのかといえば、まちが魅力的になり、今そこに暮らす人が満足することも大切ですが、それに加えて、将来にわたって人材が集まるまちにするためだと思うのです。いつも新しいことにチャレンジしている活気あるまちには、都会に出て行った若者たちも戻りたいと思います。世界に通用する優秀な人材も自然と集まるでしょう。こうしたことも踏まえた地域活性化が必要です。

「誰に向けて」「何のために」を
見失わない


― 浜松が成功したのは、天然トラフグのブランド化の他に何をしたからだったのですか。

藤崎 フグをきっかけにして、活性化策をビジネスにできたことだと思います。
 日本のNPO法人は、やる気のある人はいても、誰が運営するか、ルールづけをどうするか曖昧なところが多いようです。だから、やる気はあってもお金がないからと、行政に依存してしまうことにもなりかねない。会議があっても、仕事などの都合で出てこない方もいる。どうも日本のNPOは、組織として脆弱な部分がまだまだあります。
 私は「本当に必要だと思ったら、必要だと思う人からお金を取って運営してください」とNPO法人の方に言います。札幌の「よさこいソーラン」実行委員会が良い例です。あれは、参加者からお金をいただき、桟敷席で観る人に料金をいただくことで、学生が中心となって運営しています。しかも経済効果は二百億円と言われています。
 また、「浜名湖えんため」は任意のNPOですが、天然トラフグを使った菓子の製造や、観光業など三次産業にまでビジネスの裾野を広げました。こうした展開があって初めて人が集まると思います。彼らの五年間の取り組みは、国のモデル事業にもなりました。今後「浜名湖えんため」は、形態はどうあれ、ビジネスを生み出すためのリソース(資源)として発展していくでしょう。

― 地域活性化には、ビジネスモデルをつくることとともに、商売抜きで行動できる人がいることも重要ではありませんか。

藤崎 ええ。まさに先ほど申し上げた「ばか者」ですね。ビジネスになれば、本来の目的とは無縁なお金目当てのモドキが寄ってきます。モドキには、観光客は敏感に反応しますから、本来の目的を貫くためにも、こうした人材の存在が欠かせません。

― 浜松のほかに、最近注目されているまちづくりはありますか。

藤崎 今やっているのは、宮崎県宮崎市の青島というところです。かつては新婚旅行のメッカでしたが、今その面影はなく、県や市もあらゆる手を尽くしたがうまくゆきません。そんななか、二年前に地元の人たちが立ち上がり、地域活性プロジェクトを立ち上げました。彼らが素晴らしいのは、宮崎県知事の知名度に頼っていないところです。自分たちで試行錯誤しながらまちづくりを進めています。

― 宮崎といえば、つい最近までシーガイアをはじめ、大きな投資をしながら結局失敗してしまったケースが目立ちましたね。

藤崎 「何のために」がないまま、施設をつくるから経営が成り立たないのです。

― 全国的に見ても、地域おこしがうまくいかない原因には、その土地の政治風土が頑迷であることがあるのではありませんか。

藤崎 あります。私は以前の会社で住宅情報に携わっていましたから、独立当初は住宅問題について相談を受けることが数多くありました。売れなくなった公営住宅に関するものです。需要を見ずにつくってしまったものが、圧倒的に多いのです。しかも経営のノウハウもありません。運営は半官半民ないしは官がやっており、ここでも責任の所在が不明確です。そもそもなぜつくったかといえば、政治的な絡みが多いのですが、その後の運営もずさんだから結局足枷になるのです。

まず地域の強み、弱みを分析する

― 地方の何の資産もない、体力もないまちが、まちおこしをしたいと藤崎さんに相談にきたら、まず何をおっしゃいますか。

藤崎 本当にやる気があるかお聞きします。やる気があるとしたら、次は人材育成のコーチングです。関係者に集まっていただき、地域の課題の整理から始めます。宮崎の青島では、商工会議所の会頭や観光協会の会長などとは別に、実際に行動できる人たち総勢三七人がメンバーになり、ワーキンググループを立ち上げました。グループの討議は一年間で七十時間に及びました。私どもは折を見てファシリテーター(促進役)として参加させていただきました。討議の議題は、地域のSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析です。まず、SWOT分析をマーケットに合わせてきちんと行い、誰に向けて、何のために、いつまでに、何をやるかを整理することが重要になります。
 こうした委員会を実施することで気づくのは、これまでに住民が徹底して議論する場がなかったということです。産業や組織ごとに話し合う場はあったとしても、町全体のSWOTを分析する場がなかったのです。そして、会議を繰り返すうちに、本当にやる気のある人だけが残っていきます。それが人材です。いちばん失敗して、汗をかいて、最後まで逃げなかった人間です。本当にまちおこしをするのだったら、こちら側の真剣さと、地元の人たちの真剣さが合致しないと成果が上がりません。

― 先にお話があったように、安易にアドバイスを与えるだけでは、やはり駄目だということですね。

藤崎 コーチングとは、相手のいいところを引き出す仕事で、技を教えるティーチングとは違います。地域での会議では、声の大きい人が勝つ場合があり、目的のための話し合いができないこともあります。そんな際に必要なのが第三者的な議事進行つまりファシリテーターです。外部の人間に頼むのなら、アイデアの提供者ではなくファシリテーターだと思います。

― 集団の中で戦略が見えてきたら、次にこれをビジネスに落とし込むスキームが必要になりますね。

藤崎 はい。だからメンバーに事業計画をつくってもらいます。プロジェクトを立ち上げたとき、必ずイベントやハード等必要なものが出てきます。これが会社の場合、投資資金を銀行から借りようとすると、銀行は担保を要求するでしょう。同時に、返済の可能性があるか事業計画を審査します。地域おこしはいいことだから補助金を出して当たり前とばかり、安易に税金を投入するという考えはおかしいです。国も自治体も、まちづくりの事業計画をきちんと審査した上で、返してもらうくらいのつもりでイニシャルコストを出すべきです。むろん、地域おこしに取り組む側も、綿密な事業計画を立てるべきです。

ディズニーに学ぶべきは、
もてなしの心


― まちづくりにロケ誘致を活かそうという地域は全国にあります。しかし、映画やドラマがヒットしないと活性化にならないという悩みも抱えています。

藤崎 ロケ誘致はあくまで手段だと思うのです。プロジェクトを立ち上げるための議論を重ねていくと、メンバーは次第に疲弊してきます。そんなとき、全員参加型で誰もが楽しめる企画として、私はロケ誘致を提案しています。重要なのは、それを契機にその土地のファンになってもらうことです。土地を訪れて見るもの体感するものが、心に沁みる温かいものであったら、必ずもう一度訪れます。
 日本のナンバーワン観光地は、ディズニーランドです。ディズニーに学ぶべきは、リピート率九七・五%という数字です。その根拠は施設にあるというより、従業員のもてなしにあります。ウォルト・ディズニーのホスピタリティが、イズムとして従業員に染み込んでいるから、マニュアルも施設も生きるのです。
 今後交流に重きを置いた観光が盛んになれば、今まで以上にその土地での心遣い、もてなしは重要になってきます。

― 企業なら意思の統一も容易ですが、地域はある意味バラバラの集団でコントロールタワーの力に限界があります。これはどう克服したらいいですか。

藤崎 確かに全員が一斉に、まち全体のことを考えることは難しいと思います。こんな例が参考になるでしょうか。那須温泉のサンバレーリゾートを客室稼働率九三・五%のホテルに変えた支配人は、「出る杭になっても、まず自分がビジネスを成功させてから門戸を開く方が、初めから烏合の衆の合議制でやるより合理的だ」と言っていました。那須はこの手法で成功しました。
もっとも、成果が上がると賛同者も増えますが、新たな揉め事の種が生じることもあります。汗をかいて頑張る人間に「あいつだけが目立って」と必ず足を引っ張る者が出てきます。汗をかかない人間ほど、そういうことを言います。そんな揉め事が原因でプロジェクトが内部崩壊しないためには、地道なことですが、話し合いの場を横断的に設けて継続し、プロジェクトの目的と意義を理解してもらう以外にないでしょう。

観光客は今、旅先に交流を求める

― 地方に住む人たちは、その地方ならではの風景やたたずまいの良さに気づこうとせず、他所で人気を集めたものをわざわざ持ち込むようなまちづくりをしています。

藤崎 モドキは所詮モドキですよね。一度は訪れたとしても、みな本家へ戻っていきます。どんな土地でも、何度でも訪れたくなり、やがて住みたくなる資源はあるはずです。
 以前リクルートで「UターンIターンBeing」という雑誌をつくっていました。Iターンで人気ナンバーワンの県は長野県でした。年齢的には三十代四十代が圧倒的に多いです。ただひとつ成功しない理由は、奥様が反対されるからです。ご主人は昼間仕事に出ていますから、地方に入って土着するのは、現実的には奥様の方だからです。ただし、休日に旅行に行きたいというのは、圧倒的に女性です。最近の旅行先で人気なのは、人と触れ合える場所です。訪れて土地の人と仲良くなり、交流が深まればいずれ住みたいと思う人も増えていきます。入口である女性にその地域の良さを知ってもらうと定住に結びつくかもしれません。

― リピーターがたくさん来る地域の特徴は何ですか。

藤崎 人に触れたら気持ちがよかったということです。富士宮でも、焼きそば、朝霧高原、富士登山、浅間大社などの観光資源がありますが、観光客にアンケートをしたところ、ボランティアのもてなしがよかったという声が圧倒的に多かったです。観光ボランティアが、まちの良さを勉強し、丁寧にその魅力について教えてくれたことに感動していました。

伝統と市場性のバランスが大事

― もてなしの心を高めたいと考えていても、実際手をこまねいている地域が多いですね。

藤崎 住民の参加意欲とホスピタリティを高めるために、プロジェクトの中心メンバーが本気になることです。愛知県では、万博で観光客を集めましたが、これは一過性のものです。実は同県の観光予算は全国都道府県で四六位です。製造業に支えられている県でもあり、県民の観光資源に対する認識も高いとは言えませんでした。そこで、県の各部署でワークショップを開き、そのメンバーのなかから選抜して、現在「まちづくりリーダー会議」と題し、情報交換をしながら県全体で何を観光資源として売り出すか議論してもらっています。少ない予算のなかでも、こうしたワークショップを繰り返すうちに、住民は地域活性化に関心を持ち始め、自ら地域振興に参加する人の数が県全体で着実に増えています。

― 交流する観光という意味で、参考になる事例はありますか。

藤崎 長野県飯田市のワーキングホリデーがあります。このプロジェクトのコンセプトは「お客様扱いしない」ことにあります。ワーキングホリデーでは、とかく迎える側はよそよそしくなり、訪れる側は農家に甘えがちです。でも農業はそもそも雨が降ろうが暑かろうが、すべき時期にすべき作業をしなければなりませんね。だから、参加者を働き手としてきちんと扱うのです。一緒に汗を流し、語り合う、それが他のワーキングホリデーと違うところです。
 市役所の担当者が言った「百姓というのは、百の仕事ができるアウトドアの達人です」という言葉が忘れられません。農家の人がそのノウハウを教えることで、農業体験者は多くのことを学べますし、教えた本人も自分の仕事に誇りが持てます。繰り返しますが、地域おこしで大事なことは、徹底して話し合うことと、参加すること、失敗を繰り返しながらも汗をかいて実践することです。

― 長野市には善光寺という巨大な観光資源があります。門前では千数百年の長きにわたり、多くの参拝客を迎えてきました。善光寺の宿坊には、伝統的にもてなしのノウハウがあると思います。そのDNAをまちおこしのエネルギーとして目覚めさせたら、素晴らしいなと思います。

藤崎 そうですね。その際、そうした素晴らしい伝統と市場性をバランスさせることが重要でしょう。たとえば郷土の伝統食を残すことは大事ですが、それがポピュラーになるかどうかは別問題ですね。逆に技術も市場性もあるのに、魂や伝統のないものは一過性の人気で終わる可能性が高い。伝統と魂を継承しつつ、市場性を見出していくことがポイントだと思います。

― 今後の地域活性化の気づきになるお話を伺うことができました。本日はありがとうございました。


  




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