CCI

   2007年9月号 No.710




新世紀への提言




祝彭婉儀(ジェニー・チョック)
(香港特別行政区政府駐東京経済貿易代表部首席代表)
 香港政府の行政職として長く勤めた後、1985年に政務職に転向。医務衛生局、都市部・新界行政局、教育労働省、憲政省(名称はすべて当時)など、政府の多くの局や政策立案部に勤務。貿易産業局で貿易局長補佐(アジア担当)を務めた後、保安省事務次官補として、主に消防・救助、矯正、航空安全、および緊急対応管理に関する政策、立法、予算・人事を担当した。2006年2月、現職に任命され着任、現在に至る。
  

  


中国ビジネス成功の鍵は、
香港がもつノウハウの
活用にある


 七月一日、香港が中国に返還されて十周年を迎えた。同日行われた記念式典では、胡錦濤国家主席が、一国二制度の成功を称え、香港に対する経済を中心とした支援を継続する考えを示した。
 日本人にとって、観光地としてあるいは国際金融センターとして知られる香港は、今どのような発展を遂げているのか。また、中国本土に進出する日本企業にとって、香港とのビジネスには、どんなメリットがあるのか。駐東京経済貿易代表部首席代表のジェニー・チョック氏にお聞きした。(通訳・藤原満喜さん)


近年増加傾向にある香港への観光客

― 今日は、香港の産業や経済の現状についてお話をお聞きしたいと思いますが、その前に、チョックさんが首席代表を務められている駐東京香港経済貿易代表部についてご紹介いただけますか。

チョック 駐東京香港経済貿易代表部は、香港外に十四カ所ある香港特別行政区政府のオフィスの一つで、一九八八年九月に設置されました。香港特別行政区政府の駐日代表機関として、日本における香港の経済・貿易面での利益を推進し、広く香港についての理解を促進する役割を担っています。広報グループでは、香港でのさまざまな出来事や情勢についての最新情報を提供していますし、また投資推進グループでは、香港での事業機会に興味を持つ日本の投資家や日本企業の皆様に対し、投資環境についての情報提供などを通じて支援を行っています。

― ありがとうございます。では、まず観光についてお伺いしたいと思います。香港はかつて、日本人にとって最もポピュラーな観光地でした。現在は、香港に観光に訪れる日本人は少ないようにも思うのですが、香港の観光産業の現状について教えていただけますか。

チョック おっしゃる通り、九七年の直前には、日本からたくさんのお客様が香港を訪れました。当時に比べると、観光客数は減少しているというイメージがあるかもしれませんが、実は、近年香港への観光客数は上昇しています。二〇〇六年の全世界からの訪問客数は、前年比八・一%増の二、五二五万人で、うち約半数が中国本土からのお客様です。日本からは、約一三〇万人の方が香港を訪れ、これは前年比八・三%の増加となっています。

― 今、どちらかというと中国本土への関心が高い日本人観光客に対し、香港はどんなアピールをしていこうと考えていますか。

チョック 観光産業は香港経済にとって非常に重要な要素です。香港の観光地としてのイメージが、翳りをみせていると感じる日本人の方もいらっしゃるかもしれませんが、先ほど申し上げたとおり、香港の観光産業は発展を続けています。昨年の観光収入は、一、一〇〇億香港ドル(一四〇億米ドル)を超えます。香港政府としても、香港の魅力をさらにアップさせる努力を惜しんでいません。かつては、香港といいますと、ビルが林立するコンクリートジャングルで、ショッピングとグルメだけが目的というイメージがあったかもしれません。しかし今はそれだけではなく、香港市街地周辺の緑を活かしたエコツーリズムも開発しています。他にも、香港ディズニーランド、オーシャンパーク、香港ウェットランドパークなど新しい観光施設が次々にオープンしています。
 さらに香港では、旧啓徳空港跡地にクルーズ船ターミナルを建設する計画が進行中で、二〇一二年までに供用開始する予定です。

中国中央政府も国際金融センターとしての香港を支援

― 次に金融についてお聞きします。香港といえば、世界の金融センターですが、その地位は現在どうなっているのでしょうか。

チョック 金融サービスがもたらす経済効果は、香港のGDPの約十三%を占め、香港経済にとってやはり大変重要な分野のひとつです。
 国際金融センターとしての香港の地位を示す指標をいくつか紹介しましょう。香港の株式市場の時価総額は、二〇〇七年三月末時点で一三兆五、五一〇億香港ドル(約一兆七、三七〇億米ドル)あり、これはアジアでは東京に次いで第二位、世界第七位の規模です。株式を通じた資金調達額は、中国本土企業による香港での新規株式公開が増加した結果、二〇〇六年にアジア第一位、世界第三位となっています。また、銀行業務の中心地としては、アジア第三位の規模となっています。さらに資産運用業も顕著に増加しており、二〇〇五年に前年比二五%増の四兆五、二六〇億香港ドルの規模があります。その他にも香港には一八〇を超える保険会社が拠点を置いており、これはアジアでも有数の多さとなっています。
 最も重要なことは、中国政府が、今後も香港が国際金融センターとして発展を続けることを支援するという方針を出していることです。香港政府としましても、その地位を守り、さらに発展させていく環境づくりのため努力を続けていきます。

― 今も香港は国際金融センターとしての確固たる地位を維持しているということですね。
 ところで、資産投資のなかには、不動産投資も含まれると思います。香港の不動産ビジネスは、香港内の土地建物の売買に限られているのでしょうか。

チョック 香港における不動産業者は、ビジネスの多角化を進めており、なかには港湾の運営までカバーしている会社もあります。香港の不動産業者だからといって、香港内の不動産を扱うだけではなく、国際化した業務も扱っています。

香港は中国市場へのゲートウェイ

― なぜ不動産投資についてお聞きしたかというと、日本の産業界は中国本土とのビジネスに非常に高い関心があるものの、一方で、直接中国に進出してビジネスを起こすことにリスクを感じているため、香港を経由した方が、日本企業にとってメリットが大きいと考えるからです。香港は、国際的なビジネスに鍛えられていて、なおかつ中国本土のことも分かっていますから、日本は香港を窓口として大陸ビジネスを考えた方がいいのではないかと思うのです。

チョック ありがとうございます。珠江デルタ河口に位置する香港は、その立地を活かして過去一五〇年以上にわたって中国本土へのゲートウェイの役割を果たしています。それは今も変わらず、外国企業が中国本土の巨大市場への進出を図るための拠点として、いちばんの優位性を誇っていると考えます。
 また、香港は中国本土にとっても最も重要な貿易中継地であり、再輸出・再輸入を含めると、中国本土の外国貿易の約二一%が香港を経由しています。香港は中国本土の貿易相手として、日本、アメリカに次ぐ第三位のポジションです(二〇〇六年)。

― 現在、どれほどの外国企業が、中国ビジネスの窓口として、香港に事業拠点を置いているのでしょうか。

チョック 二〇〇六年六月一日の時点で、前年比二〇%増にあたる三、八四五社の外国企業が、香港にアジア地域の事業拠点を置いています。うち一、二二八社は地域統括本部、二、六一七社は支社となっており、また三、八四五社のうち七三〇社以上が日本企業です。

― 地理的条件はもちろんですが、フェイス・トゥー・フェイスのコミュニケーションを大切にする中国ビジネスの文化的土壌を、香港が共有している点も、外国企業にとって大きなメリットではありませんか。

チョック おっしゃる通り、香港は中国本土と文化的背景を共にする部分が多いですし、中国でのビジネスのやり方について知識やノウハウを持っています。外国企業は、香港企業とパートナーシップを結ぶことで、そのノウハウを活用しながら中国本土へのスムーズなビジネス展開ができるでしょう。

税率が低く、
ルールが公平な香港の税制


― 一方で、香港は中国本土企業が海外に進出する窓口としても機能しているということでしたね。

チョック はい。中国企業は香港を資金調達センターとして活用しており、二〇〇六年十二月時点で三六七社の中国本土企業が香港に上場し、その時価総額は、六兆七、〇〇〇億香港ドル(八、六三〇億米ドル)になります。また、中国本土企業は過去十年間で一兆香港ドル(一、三〇〇億米ドル)を超える資金を香港において調達しました。つまり、香港のゲートウェイとしての機能は、近年新たな次元で発展しているといえます。

― 中国本土の経済規模が非常に大きくなり、外貨準備高が大きくなればなるほど、中国のファイナンスセンターとしての役割は大きくなりますね。九七年以降、香港は日本経済にとって注目の的ではなかった時期があったものの、中国経済の拡大に合わせ、日本は香港の機能にもっと注目すべきだと思います。

チョック そうあってほしいと思います。グローバルな競争が激しいなか、日本企業もその競争に勝ち抜くために、いかに香港を活用していくかということを考えていただければと思います。

― 日本企業が香港へ進出する際、税率等香港の税制について、経営者は関心を示すと思うのですが。

チョック 香港の税制は非常に簡潔で、しかも税率が非常に低いのが特徴です。外国企業がビジネスをやりやすいという評価をいただいているのは、そのあたりに理由があるのではないでしょうか。
 法人税は一七・五%、給与所得税は一六%に抑えられています。また、配当金、利子、キャピタルゲインは原則非課税です。さらに、消費税、相続税などもありません。

― 香港に居住する外国人にも、その税率は適用されるのですね。

チョック ええ。香港に在住していれば、外国人の方も同じ税率です。ちなみに給与所得税は、香港で発生した所得のみに課せられるもので、本国で得た収入に対して課税されることはもちろんありません。

― 法人も同様ですか。

チョック 香港は、「レベル・プレイング・フィールド(平らな競技場)」であるといわれるように、外国企業であっても地元企業であっても、同じルールのもと同じように扱われます。
 また、資金の流れに制限はありませんので、香港で得た所得を海外に持ち出すことも、あるいは日本で得た所得を香港に持ち込むことも、完全に自由に行えます。

中国経済とともに
ますます発展する香港


― 税制の他に、日本企業が香港に進出するメリットには、どんなものがありますか。

チョック 日本企業に限ったことではなく、外国企業全般にあてはまることですが、香港では外資に対する規制がほぼ皆無であるため、進出へのバリアは非常に低いです。繰り返しになりますが、外国企業に対する特恵待遇といったものはほとんどないものの、地元企業も外国もその扱いに差はなく、同じ立場で公平な競争ができます。だからこそ、数千社にのぼる外国企業、日本企業に限っても二、一〇〇社以上が、香港に拠点を置いているのだと思います。
 また、中国の特別行政区としてのメリットもあります。香港と中国本土との間に締結された経済貿易緊密化協定(CEPA)では、香港に拠点を置いた外国企業もそのメリットを活用することができます。たとえば、一定の条件を満たせば無関税で中国に輸出できたり、サービス分野の二七業種について、中国本土市場に向けてより有利な条件で進出したりすることが可能です。

― 電力や水といったインフラが、香港では十二分に整っていることは承知していますが、人件費やオフィスの賃料は、日本に比べてどの程度の水準にありますか。

チョック 統計がないので、私の感じたところをお話しさせていただきますが、給与については日本の方が若干高いのではないかと思います。家賃についても、首都圏であれば日本の方が、香港に比べてやや高額との印象です。

― 香港は自然災害も少ないところですね。これも外国企業にとって大きなメリットだと思います。

チョック 香港は一千平方キロメートルと狭い土地なので、広大な中国本土と違い、自然災害が起きたというニュースはないですし、地震についても、香港はプレートの上に位置していないので、その憂いはありません。とはいえ、万が一の自然災害に備え、政府は緊急時のリスク管理もきちんと行っています。

― お話を伺うと、やはり日本経済はこれまで以上に香港に注目すべきですね。
 チョックさんは、香港の将来性についてどうお考えですか。

チョック 明るいと信じています。一国二制度のもとで、政治的な安定性を保ちつつ、経済面では国際金融センターとしてますますの発展を遂げていき、また、中国の世界経済との一体化を促進する役割を担っていくと思います。

長野県の観光の魅力を
もっとアピールすべき


― 成長を続ける中国経済をサポートする香港に、私たち日本人が学ぶことも多いと思います。たとえば、観光産業についてです。冒頭で、香港の観光産業の現状について伺いましたが、そもそも香港の方は、日本を観光の対象として関心を払っているのでしょうか。

チョック もちろんです。日本は、香港の人たちにとって世界で一、二の人気を争う観光の目的地です。自然が豊かで、温泉があり、おいしい食事もいただける日本を、香港の人たちは非常に魅力的に感じていますよ。

― 日本では、国内を移動する交通費が高く、香港から日本に観光に訪れた方を地方にお呼びすることが難しい気がします。香港の旅行業者も、地方へのツアーを敬遠する傾向にあるのではないでしょうか。香港からのお客様の多くが、国際空港のある都市部の周辺でのみ観光を楽しんでいらっしゃるように思えます。ちなみに、長野県には年間四万人の台湾人観光客が訪れますが、香港の方はまだ少ないのが現状です。こうした状況にある長野県の観光産業は、香港からのお客様を増やすために何をすべきか提言をいただけませんか。

チョック 香港と長野を直接結ぶフライトを開設するのが最も手っ取り早いでしょう。そうすれば、もっともっと多くの香港の人が、長野県を訪れるはずです。
 もとより長野県には、すばらしい山岳景観があるではないですか。香港の人にとって、これほど心惹かれる観光地は、なかなかありません。長野県の人は、その景観のすばらしさについてもっとプロモーションすべきですよ。

― 確かに長野県は山岳県で、その景観は、とても貴重な観光資源です。とりわけ冬に雪をいただいたアルプスの眺めは、香港の方にきっと気に入っていただけるのではないかと思います。
 ところで、二〇〇九年の春に、長野市の善光寺で御開帳というイベントがあります。本堂に安置されている秘仏の本尊の分身を七年に一度一般に公開する儀式です。前回の二〇〇三年の折には、韓国と台湾でキャンペーンを行い、たくさんのお客様に来ていただきました。今回は、香港にキャンペーンキャラバンを派遣しても効果があるとお考えですか。

チョック もちろんです。善光寺の御開帳だけでなく、長野全体の魅力を香港の人たちに伝えてください。

― 長野県には温泉も数多くありますが、香港の人たちにとって、温泉の魅力はどの程度なのでしょうか。たとえば、露天風呂に入ることを気にされるようなことはありませんか。
 また、チョックさんは日本料理がお好きだというお話もありましたが、それは香港の人の多くにもいえることですか。

チョック 温泉に関しては、最初は躊躇するかもしれませんが、実際に温泉に入ってみて、嫌だったという人はいないに等しいですね。ひとたび温泉好きになると、どこにどんな温泉があるか研究している人も数多くいます。露天風呂についても、そちらの方が好きという人が多数派でしょう。外でお風呂に入るのは、香港の人にとっても気持ちがいいものですし、とりわけ冬の寒さの中、周囲に積もった雪を眺めながら浸かる温泉は格別です。
 日本料理に関しては、香港にもレストランはありますが、本格的な日本料理となるとやはり高価です。ですから、実際に日本に来て、新鮮なお寿司やお刺身を安くいただけることは、大きな魅力ですね。香港の人が日本を訪れる最も大きな理由は、何といっても日本料理を食べることです。温泉が豊富な長野県にもすばらしい郷土料理があるでしょうし、これをアピールすることもポイントかもしれませんね。

― 貴重な提案をいただきました。今後さまざまな分野で香港と長野県の関係が発展することを期待しています。本日はありがとうございました。


  




[会議所だよりトップに戻る] [長野商工会議所トップに戻る]

ご意見・ご感想を下記へお送り下さい
長野商工会議所  〒380-0904 長野県長野市七瀬中町276
電 話:026-227-2428/FAX:026-227-2758
E-mail:ncci@nagano-cci. or.jp

copyright