横田さんの職名は「バンブーロッドビルダー」。渓流釣り(フライフィッシング)用の竹竿を手作りする職人です。日本中を探しても同業者が五人に満たないという特殊な分野のプロフェッショナルですが、妥協のない仕事ぶりと製品の完成度の高さで、横田さんの名と「横田ロッド」は釣り愛好家にはよく知られた存在です。 現在、フライフィッシングのロッドはカーボン製が主流だそうですが、発祥当初からの伝統である竹製を愛する人も少なくありません。「フライフィッシングというのは、数ある釣りの中でも少々特殊で、釣り人一人ひとりが独自のストーリーや美学を持っているんです。きれいな竿できれいな魚を釣りたいという思いが強いんですね」。竹を丹念に加工し、細密な工夫を施したバンブーロッド独特の感触、手ごたえ、そして美しさは、そうした釣り人の心をとらえて離さない魅力を持っているようです。 実は、横田さん自身もバンブーロッドに魅せられた釣り人のひとり。今から二十余年前のある日、黒姫で出会った釣り人が使っていた竿を持たせてもらい、一目ぼれしてしまったのだとか。当時は会社員でしたが、「これが自分の仕事になると直感した」といいます。その作者が幸運にも長野市在住だったことから、すぐに弟子入りし、ひたすら竹と向き合う日々が始まりました。 バンブーロッドの材料は、中国原産のトンキン・バンブー。中国ではビル建築の足場にも使われる硬質で重量感のある竹です。それをロッドの種類に応じた太さに割り、アルコールランプで一本一本あぶってまっすぐにし、特殊なレールの上でカンナをかけて精密な正三角錐に削り上げます。これを六個、ちょうど鉛筆のように張り合わせ、デザインを施して塗装し、グリップやガイドをつけてようやく完成。気が遠くなるような手作業の積み重ねですが、九一年に独立したばかりの当時、横田さんは、それがおもしろくて休むことも忘れて一年間、毎日ロッドづくりに明け暮れました。「ところが、翌年の展示会でお客様と全然話がかみ合わないんです。丸一年、釣りから離れてしまいましたからね。これではいけないと思いましたよ」。 以来、ロッド製造にも釣りにも惜しみない情熱を注ぎ続けている横田さん。長野県中の川はもちろん全国各地へも足を伸ばし、多くの経験を積んできました。今手がけているロッドがどんな場面でどう使われるのか、横田さんが頭に描くイメージはいつも具体的です。だからこそお客様の微妙な要望を理解し、応えることができるのでしょう。自らを「釣りバカ」と呼ぶ姿と「職人」のこだわりが重なって見えました。