CCI

 9月号 No.674




新世紀への提言

神谷 利徳
 店舗デザイナー

(有)神谷デザイン事務所代表。1961年愛知県西尾市生まれ。大学在学中のアルバイトを含め、バーテンダーを経験後、87年に神谷デザイン事務所を設立。600以上の店舗デザインを手がけ現在に至る。また、デザインスクール、名古屋大学、名古屋工業大学大学院での講師のほか、2002年4月にはフードビジネスや店舗デザイン等のためのスクール「So‐Co(ソーコ)」を設立。主要作品に「名古屋・驛麺通り」(愛知)「養老サービスエリア(下り線)」(岐阜)「馳走紺屋」(東京)「BALILax」(東京)「琉球村」(沖縄)など。主な受賞に、JCDデザイン賞入賞、松下ライティングコンテスト、第1回CCDOデザインアオード2001など。現在、沖縄県在住。

  


この時代を「生きている」ことを
実感できる舞台づくり


 株価も製造業の設備投資額も上昇傾向にあり、日本経済は復調の兆しを見せている。一方で、個人消費はいまだ冷めたままだと実感する経営者も多い。しかし、モノが売れない、店に集客力がないといった現在の状況は、景気の低迷や、将来への不安を抱えた消費者心理のみに、要因があるのだろうか。
 全国で六百以上の店舗デザインを手がけ、次々と繁盛店を生み出しているデザイナーがいる。神谷利徳氏である。「神谷デザイン」をブランドに押し上げ、業界のトップランナーとして駆ける神谷氏に、今、商業施設に求められる要素とは何かをお聞きした。

繁盛を呼ぶのは
経営者の理念と努力



― 神谷さんがデザインを手がけられた店舗は例外なく繁盛しているとお聞きしますが、その要因は何だとお考えですか。

神谷 店舗が繁盛する理由には二つあると思います。一つは時代がそのお店を必要としているから、二つ目は人の貪欲さを刺激し満たすからです。人の欲には限りがないですよね。掴んだとたんにまた膨らみます。もっと旨いものが食べたい、もっと感動するものが欲しいと思う。従来の一般的な商業施設は、人の貪欲さをどう刺激するかが求められていたし、デザイナーの仕事としてもこれを助けることで十分でした。
 ところが、イニシャルコストを回収する前に世の中がガラリと変わる時代です。貪欲さを刺激し満たすだけの商業施設は、激しい変化の中でいつかは粗大ゴミになってしまうでしょう。そこで現在の選択肢は二つあります。イニシャルコストを押さえ、これを短期間で回収するか、あるいは一定のコストを掛けても、同じ場所に腰を据え、息の長い商売をするかです。

― すると、クライアントがどちらを選択するかで、店舗デザインも変わってきますね。

神谷 ええ。そして、息の長い商売をするならなおさら、オーナーの社会に対する理念が問われます。たとえば半径五百メートルの商圏の中で、子どもたちに幸せになってもらいたい、サラリーマンに勇気をもってもらいたい、主婦にコミュニケーションの場、健康美容を提供する場にしたいなどいろいろあります。クライアントとのディスカッションでは、その地域に対して、どんな役割を果たすために出店するのか、その想いとニーズの必然性を共通の認識とすることが大事です。

― まず「売れる」デザインありきではなく、店を構えようとする場所で、その商いを一生の仕事とする覚悟が経営者の側にないと、今の時代の店舗経営は成功しないということですか。

神谷 飲食も物販も、日々の努力の継続が問われます。ライフスタイルとしてこれをやらない限りは、商売を続けることができません。逆に言えば、明確な理念を持ち、かつ地域に腰を据えて努力する覚悟のある人なら、何を商っても繁盛します。
 店が繁盛しているのは、経営者が自分の理念の実現に向けて、日々小さな努力を積み重ねているからです。いくらデザインがよくても、シェフが旨い料理をつくっても、それだけではなく、経営者の努力が一分一秒ごとに評価されるのが商売です。おしぼりの出し方、お客さまへの返事の仕方一つで、お客さまはお店の良し悪しを判断しています。
 ですから、デザイナーの仕事とは、クライアントの努力の継続に負けないよう、時を重ねても時代から必要とされる店舗をつくることではないでしょうか。

時代にとっての必然性の有無

― クライアントから依頼があった時、何を手がかりにデザインコンセプトを固めていくのですか。

神谷 なぜ飲食をやるのか、どんな業態の飲食をやりたいのかはもちろん確認します。もっと突き詰めて、その人がどんな人生を送ってきたのか、どんな感性の持ち主なのかまで掴もうとします。その折よく尋ねるのが「そのお店を月にたとえたら、どんな月ですか」という質問です。

― 本人が思い描くイメージにより、皓皓とした満月であったり、三日月であったりするわけですね。

神谷 ええ、ちょっと欠けているとか、朧月夜みたいに奥ゆかしい感じだとか。それが、クライアントが持っている理念や店に描いているビジョンをこちらが掴む手がかりになり、また、クライアントが自身の店舗経営のあり方を見つめなおす機会にもなります。

― デザインやインテリアをハードとして提供するにとどまらず、経営コンサルティングなど、その仕事はソフトの部分にまで及ぶわけですね。クライアントの理念とともに、店舗デザインに欠くべからざる要素はほかにありますか。

神谷 今の時代にとっての必然的な存在理由でしょうか。スタンダードすら変化する時代に、その変化に柔軟であることが時代のニーズですね。でも、変化に対応することに誰もが疲れています。現代を生きる人が精神的に枯れている部分に対して、何がしかの栄養を与えられる可能性をもった商業施設をつくり、そのメリットを生かしきることです。

― すると、神谷さんのデザインはクライアントの理念によって、あるいは時代のあり方によって自在に変わっていくわけですね。

神谷 店舗はクライアントの社会的理念を実現するための舞台であり、お客さまとのコミュニケーションの舞台だと思うのです。デザインはあくまで切り口であり、戦略として行われるべき手段です。その段階では僕のアイデンティティは要らないと思います。

店の空気を自然界の力に委ねる

― 最近手がけた店舗の中で、特に印象に残っている店を挙げていただけますか。

神谷 手前味噌になりますが、自分がオーナーをしている「厨やのりのり」という店です。店のテーマは「呼吸」にしました。カウンターは塗装を一切していない無垢のままのトチノキです。照明はろうそくの灯り、壁は籾殻を塗り込んだもの、床はスギ板に蜜蝋を塗っただけ。自然の素材が持っている力を大切にしました。

― そういえば、神谷さんはレストランのデザインに自然素材を使われることが多いですね。

神谷 ええ。レストランでお客さまはおおよそ二時間ほど過ごします。物販のお店では、無機質な素材をふんだんに使い、来店した人を非日常的な世界にスリップさせる手法もあります。でもそのインパクトは、短い時間を対象にしたものであって、お客さまに寛いでもらうのが目的のレストランには通用しません。

― 確かに、自然素材が使われていることで、優しさや心地よさを感じる時があります。

神谷 脳ミソで考えたデザインは、脳ミソで理解できます。けれど、人間の体はそれだけでできているわけじゃありません。自然の中にいて安らぎを感じるのは、地球の素材である土や木や石が、地球が刻んだ地球の記憶を持っているからです。人間の体も本来持っている、自然界の営みと共鳴する部分が、その記憶からエネルギーをもらうと思うのです。そこに居るだけで皮膚が自ずと感じ取る心地よさが癒しをもたらしてくれる。自然界にあたかも回帰するような一体感、安心感を皮膚から吸い込むような感覚です。これをどう店舗デザインにするかといったら、もう自然界の力に委ねるしかない。土や木や石と同じように、人間も地球の記憶を刻まれた存在であると体が気付き、心地よさを感じるためには、店を包む空気は土や木や石に託すしかないと思います。

モノではなくコトの時代

― 神谷さんの狙いを店舗で演出しても、以前はオーナーもお客さまもついてこられなかったと思います。そのデザインが今受け容れられているのは、時代が変わったからでしょうか。

神谷 二十世紀は「モノ」の時代でした。モノがたくさんあふれることで、人は幸せになれると幻想を抱いていました。デザインもその幻想のもと、モノを豊かにすることで人を幸せにしようとしていました。しかしバブル崩壊後、人はモノが豊かなことが幸せとイコールではないと気づき始めました。モノがあればあるだけ不安になったわけです。
 その結果、消費者は賢くなりました。自分に必要でないものは買わない。必要なものは多少高くても良いモノを買う。モノ自体よりも、なぜそのモノが自分にとって必要なのかというストーリーを今の消費者は意識しています。モノの時代から、モノを支えている「コト」の時代、「ヒト」の時代に移ってきたと僕は思います。モノづくりではなく、コトづくり、ヒトづくりが大切になってきた時代です。

― 最終的に消費するモノ自体ではなく、モノができあがるプロセスに意味があるということですか。

神谷 そう。そのプロセスをどれだけプレゼンテーションできるかが、消費者に受け容れられるか否かの鍵ではないでしょうか。
 たとえば、有機野菜や無農薬野菜が売れていますが、味に関する評価は、主観的であいまいなものです。消費者が判断基準にしているのは、野菜そのものの味というよりも、消費者に届くまでのプロセスに信用があるかどうかです。生産者を明記した食品もそう。自分に届くまでのストーリーが伝わることで、消費者は安心を購入しています。したがって、レストランでも商業施設でもモノの背後にあるコトづくりをこれからはしていかなくてはいけないと思うのです。

売り場ではなく買い場をつくる

― モノの背景にあるストーリーを実際の店舗づくりに生かすことは、従来のモノの時代にどっぷりつかった経営者にとっては難しいところですね。

神谷 売り場ではなくて、買い場を作ればいいわけです。売り手の理論で並べられた商品に対して、消費者は騙されてなるものかと身構えます。観光地のお土産など典型ですよね。消費者は自らのライフスタイルにリンクしているものでなくては買いません。商品にストーリーが見えないからです。
 この仕事をしていると、「売れるもののヒントを教えてください」とよく言われますが、具体的にどんな商品がこれから売れるかなど僕にも分かりません。けれど、商品全体にストーリー性があって、店舗がお客さまに対し、ライフスタイルを提案できる店づくりをすれば、その店は繁盛します。商品ではなくスタイルを売るという発想が重要でしょう。つまり、これが「買い場」です。

― 「お客さま」と言葉では言いながら、売り手は買い手の心理を意識していなかったわけですね。

神谷 買い場づくりを妨げてきた理由のもうひとつは、物流だと思います。愛媛県のある村で「枝付き蜜柑」と銘打ってインターネットで売ったところ、自然志向の人に大好評でした。一本の木には、酸っぱい蜜柑も、大きさが不揃いな蜜柑もたくさんあります。枝付き蜜柑は通常の流通には乗らない、いわば規格外の蜜柑でした。ピカピカで同じサイズ・甘さの規格品蜜柑は本当に消費者の求めるものではなかったのではないでしょうか。それよりも、味や大きさにばらつきがあっても構わないと消費者は考えていたのです。また、枝付き蜜柑が食卓に上がることで、食べてみて「甘かった」「酸っぱかった」と家族のコミュニケーションも生まれるかもしれません。これを奪ったのが、売場の発想、商品の規格化という物流の発想だったのです。

時間を消費する場を提供する

― 確かに、インターネットの普及が、商品の見せ方売り方、そして物流のあり方も大きく変えました。一方で、大きな店舗が撤退し、テナントが空いたままの商業施設が目立ちます。

神谷 家賃収入を確保したいという発想だけで、商業施設の開発や運営をする時代ではありません。失敗している商業施設は共有部分というか、コミュニティースペースに欠けています。お金を産まないものには投資できないのですね。「買い場」の必要条件のもう一つは、潤いや楽しさを生み出すコミュニティーゾーンの存在です。お客さまがお金を落とすところではなく、時間を消費する場を提供することが必要です。

― 商業施設全体の理念やデザインと、個々のテナントの理念のすり合わせという問題が残りますが。

神谷 それはテナントの貸し方で解決できると思います。施設全体の理念に共感する人を集めればいいわけです。

― 何がなんでもテナントを埋めることに躍起になるのではなく、自分たちの理念に対し、「この指止まれ」と言って、賛同する人のみで動かないと、商業施設も長続きしないということですね。

神谷 三十坪の店は出せないが、二坪ショップならやってみたいと考えている人は数多くいます。そうした人に、商業施設が目指す理念をしっかり説明します。物販ならば、生産履歴が管理できる手造り品だけを扱いましょうと、想いを共有するわけです。
 商業施設でいちばん辛い問題は、お客さまが入らないことです。ならば、人がたくさんいる構造にすればいい。二坪ショップなら店の数が多いから店員の数も多いわけです。店舗が十五あれば、開店時から少なくとも十五人の人間が既にいます。各店で一人お客さまを連れてくれば、三十人になる。人がいるのが外から見えるから盛っているように見える。一般のお客さまも自然に集まります。また、二坪ショップなら、万一買い手や時代により淘汰されても、次のニーズに見合う店舗が出店しやすいという利点もあります。ほどよく店舗が入れ替わりますから、施設全体の新陳代謝にもいいわけです。

― 経済的な合理性が優先し、そうした発想はこれまで出ませんでした。

神谷 店舗という舞台では、経済的な合理性とは違うところで、人間的なエネルギーの交換が起きていることに気付かなかったからです。お店は商品も売るかもしれませんが、実は夢や価値観や歓びも同時に提供しています。この舞台で、地域の人々と上手にキャッチボールができれば、エネルギーの交換はうまくいく。自然に人は集まります。人が集まれば、結果として収益も上がるはずです。
 また、地域での良好なコミュニケーションのためには、その地域だからこそ備えている、歴史や風土を紐解き、そこから自分たちにとっての本物を創り出していくことが大切です。ないもの探しではなくて、あるべくしてあるものをどう見せるかです。その点長野は大きな可能性をもった場所だと思います。

ブランド力はメンテナンス力

― 消費者の本物志向は今後も続くと思われますか。

神谷 ええ。ただし、社員教育をきちんとしない経営では駄目でしょうね。例えばこんな事例があります。BSE問題で牛肉の消費が落ち込みましたが、商品を出すお店側も、牛肉が自分の店に届くまでのプロセスに無関心過ぎたのですね。焼肉屋の社員に肉牛の生産者のところへ研修に行かせるのも、立派な社員教育だと思います。コトを学ばせるヒトづくりです。生産者の日々の努力、肉牛の生命の尊さを体で知れば、商品知識も深くなるし、接客も変わるはずです。重要なのはそれが売らんがための知識ではないことです。スタッフの想いの強さはお客さまに通じます。お店の姿勢に安心感を覚えた人はリピーターになります。

― お客さまとの間の信頼関係を、ヒトづくりによって築いていくわけですね。

神谷 それがブランディングするということだと思います。ブランド力があるというのは、メンテナンス力があるということです。なぜルイ・ヴィトンが売れ続けるかといえば、デザインなど商品の表層的な価値もあるでしょうが、その背後にある製造プロセスやメンテナンス力に信用があるからです。息の長い商品は必ずこれを持ち合わせています。

― 新しいお店で、そのブランド力を見せる方法は具体的にあるのでしょうか。

神谷 ブランド力を築く足がかりとして、お客さまに安心感を提供することができるかどうかが大切だと思うのです。食材も食器も地産地消にこだわる、箸は使い捨てにしないなど、これからブランディングしていこうというメッセージは伝えられるはずです。

― 神谷さんは今後店舗デザインを通して、何を訴えていきたいとお考えですか。

神谷 日本の文化には、茶道、華道、あるいは武士道など「道」があります。この「道」を通して、日本人は長きにわたり礼儀や礼節、自然との関わりを学び、日本人に固有のホスピタリティ・マインドを身につけていました。そのDNAを今の若者にも伝えていきたいと思います。ただし、文化度の高さだとか、アカデミックさだとか、四角四面のまじめさなどは取り払って、若者がストレートに格好いいと思い、そのDNAを受け継ぐ場をつくりたいですね。

― 今の若者は、かつてのモノの時代になじまないストイックな面を持っている一方、自分たちの社会に対して、自分たちの生き方に対して自信がないように思います。

神谷 彼らが欲しがっているのは、今という時代を、確かに自分が生きているという実感なのだと思います。そんな場をつくってあげることができれば、その舞台でのヒトづくりを通じて、人のため、世の中のため、次の世代の子どもたちのために何をやればいいのか若者自身が学び、実践していくと思いますよ。

― 本日はたいへん興味深いお話をありがとうございました。


  




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