2020年10月号

View Point

藤澤 敏彦(ふじさわ としひこ)

長野商工会議所工業振興委員長
長野日本無線株式会社代表取締役社長
日本無線株式会社常務執行役員

1953年生まれ。横浜市立大学商学部卒業。長野日本無線株式会社入社、執行役員総務本部副本部長、取締役執行役員総務本部長を経て、2016年より現職。

ワーク・ライフ・バランスの時代や
 SDGsなどの社会課題の解決は
  今後の長野にとってもチャンスです

 昨年の台風で大きな被害を受けたうえ、今年はコロナ禍により長野のものづくり企業は非常に厳しい状況にあり、工業振興委員会では中小零細企業を対象とした産学官の交流、BCPの作成や人材育成への支援に力を入れていきます。一方で、新常態など今の社会課題に向き合うことは、長野経済にとっても大きなチャンスになると信じます。

BCP作成や
人材育成の支援を中心に

── 藤澤社長は昨年10月に長野商工会議所工業振興委員長に就かれました。抱負とともに今年度実施する事業についてお聞かせください。

藤澤
 商工会議所の「商」と「工」とは、大掴みで言うとサービスとものづくりであり、工業振興委員会はこのうちものづくりに関わる事業の一翼を担う重要な役割であると考えています。
 昨年の台風19号では地元企業はたいへんな被害を受けました。今年に入ってからはコロナ禍が企業を苦しめています。当社でもお客様の事業活動が停滞し、あるいは国内外のサプライチェーンが寸断されるなどし、いまだ東南アジアを中心に部品調達で影響が残っています。報道によると、世界のGDPの落ち込みはリーマン危機の3・5倍に及ぶといわれています。人もカネも物も動かないわけですから、当然のように多くの企業が減収減益で、雇用問題も含め実生活にも影響が出ています。
 足元の非常に厳しい状況において、当会議所として各企業へのサポートをどのようにしていくのか、また将来に向けた工業振興や地域経済の成長戦略をどのようにしていくのか、北村会頭、伊藤副会頭は非常に苦心していらっしゃいます。お二人のお考えを少しでも理解しながら、当会議所の方針に沿って委員会事業を実行し、結果を出していきたいと思います。
 令和2年度の当委員会事業のポイントは4つで、すなわち産業フェアの成功、UFOものづくりサロン等の産学官交流、BCP支援、人材育成です。このうち産業フェアについては、大変残念ですが、新型コロナウイルス感染症拡大を受け中止としました。ただし、ビジネス商談会等特定者で行う事業は、感染予防対策を徹底したうえ実施したいと考えています。
 UFOものづくりサロンは、地域企業経営者、大学側教官、長野市、長野商工会議所などが中心となって、相互交流を図りながら結果的に地域全体の活性化につなげることを目指すものです。今年も年数回開催します。

 次にBCP作成支援についてです。台風 19号災害からの復旧も道半ばですが、私たちは今後も自然災害に直面するリスクがあり、またコロナ後の新常態への対応でもBCPが重要になります。とはいえ中小零細企業の多くはBCPを作成する知識、人材、時間を確保できずにいます。そこで当委員会では支援のためのセミナーや個別相談等を開催します。製造業は従業員数が他業種に比べ多く、従業員を守る責任も重大です。企業活動がストップしない仕組みは今後一層必要と考えます。
 4つめの人材育成ですが、これは人口減少時代における最重要課題です。当委員会ではポリテクセンター長野の協力も得ながら、人材育成に資するいくつかのコースを開催してまいります。

 

ワーク・ライフ・バランスは
長野のチャンス

── 現在の長野市の経済状況、中小企業が抱える課題についてどうお考えですか。

藤澤
 何十年前の僕らが大学生だった頃、長野は愛知や静岡に次ぐUターン御三家でした。文系、理系とも大卒者の受け皿がたくさんあって、豊かな自然に囲まれ、庭付き一戸建てが買えて職住近接で、満員電車に乗る必要はなく会社までクルマでドアtoドア、近くのお母さんが畑で採れたキュウリやナスを持ってきてくれる、たいへん暮らしやすいところでした。
 戦中戦後から昭和時代には、ものづくりの会社がたくさん長野市とその近郊に所在し、雇用も十二分にあったのです。ところが、グローバル化の波により、多くの企業が長野からまた国内から撤退、移転、あるいは縮小していきました。
 また、長野オリンピック開催を機に新幹線や高速道路が整い、東京とのアクセスが断然良くなりました。気がかりだった親の介護も、長野市には施設などが充実しており心配ないとなれば、優秀な人材が長野に帰らなくなります。当社も含め、企業の新卒採用力がじわりと落ちてきています。
 企業は人です。「この会社で働きたい」と常に人を惹きつけるため、会社は成長戦略が描ける魅力ある先端のことをやっていかないといけません。それには商工会議所のような地元に根付いた組織が、企業同士のマッチングなどのビジネスの芽を育てるきっかけづくりをしていくべきと考えます。
 コロナ禍の影響で、今までなかなか出来なかった働き方に日本企業は取り組まざるを得なくなりました。テレワークしかり時差出勤しかりウェブ会議しかりです。新常態においては、会社の所在や勤務場所はどこでも良いわけです。ならば先ほど申し上げたように、豊かな自然の中、庭付き一戸建てが買えて、満員電車もなく、近くのお母さんや近所のおばさんが採れたてのキュウリやナスを持ってきてくれる長野、しかも温暖化の影響で猛暑日が続き湿度も高い東京より、カラッと涼しく過ごしやすい長野の方が、やっぱり良いと言う人がたくさん出てくるでしょう。日帰り温泉や、ゴルフ場へもクルマで30分ですし、ワーク・ライフ・バランスの時代は、長野にとって大いなるチャンスです。

 

長野の会社としての
存在感を出していく

── 御社はどんな将来を見据えながら事業に取り組み、また地域でどんな役割を果たしていかれますか。

藤澤
 長野日本無線は、地域の安全を守る防災システムや社会基盤を支える放送・通信システムなどの「公共インフラ事業」、防災・セキュリティなどのスマートコミュニティを実現する「情報通信事業」、エコカーなどの次世代自動車に搭載される「車載用電子部品事業」、事務機器・医用機器・生産設備を提供する「メカトロニクス事業」を柱としており、お客様も国内から海外、民間から公官庁まで幅広いのが特長です。
 当社は、「企業公器」の考え方をバックボーンに、長期的な成長のためのESG(環境・社会・ガバナンス)を企業の根本に置き、経営指標にSDGs(持続可能な開発目標)を掲げています。今後は超スマート社会の到来に向け、IoT、AIとモビリティをキーワードに技術とものづくりを極め、省エネルギー、代替エネルギーを実現する製品を提供していきます。ビジネス環境が激変するなか、「環境・エネルギーカンパニー」として社会に貢献することが当社の使命です。昨今では、開発案件として車載用窒化ガリウムパワーデバイスの実用化が環境省の事業に採択され、小型高効率の電源開発を進めています。
 また生産のあり方については、今後の人手不足や生産の品質向上、効率化のなかで、省人化・自働化を進めながら、社員にはもっとクリエイティブな仕事をしてもらうことで、次の成長へ向けた仕組みづくりを進めているところです。
 そして地域にあっては、近隣の大学との共同研究や地元企業とのコラボも含め、今まで以上に産学官(行)との連携を密接にし、長野の会社としての存在感を出していきます。

 

藤澤 敏彦さんの横顔
大学時代からヨットに親しみ、国体、ワールド選手権の出場経験あり。趣味は他に、ゴルフ、オートバイ、囲碁(日本棋院3段)。


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