2020年8月号

View Point

髙野 善生(たかの よしお)

長野商工会議所中小企業政策委員長
朝日税理士法人代表社員

1956年長野市生まれ。日本大学商学部会計学科卒業。朝日税理士法人代表社員税理士。関東信越税理士会長野支部長等歴任後、現在関東信越税理士政治連盟副会長。2019年11月より長野商工会議所中小企業政策委員長・常議員。

 

地域経済を下支えする経営者の皆さんの
 将来の発展に向けた事業計画の作成や
  事業承継について支援していきます

 長野地域の中小企業は、短期的には昨年の台風災害からの復興、新型コロナウイルス感染拡大で縮小した経済の活性化という課題を抱えています。一方で長期的には、少子高齢化が大きな問題で、今後の発展のためには海外との取引拡大が鍵となるでしょう。中小企業政策委員会では、経営発達支援計画の策定と事業承継支援の2つを柱として、地域の中小零細企業を支援していきます。

中小零細企業の
活性化に向けた2つの事業

── 長野商工会議所中小企業政策委員会は、どんな役割を持っているのでしょうか。

髙野
 もともと商工会議所は、1599年にフランスのマルセイユで商人ギルド(組合)の連合体が「商業会議所」を設立したことが始まりと言われています。これが全世界に広がり、日本では江戸時代末期に西洋列強との間で不平等条約が締結されたことの反省から、商工業者の地位向上を目指し明治政府により導入されました。
 市における商工会議所と町村における商工会は、前者で国際的活動が可能な点を除けば、その基本的役割は同じです。ともに中小企業庁が打ち出す国の大方針を地域経済に落とし込み、自治体の商工部などと連携して事業者の皆さんに向けて具体的な活動をしています。
 活動に際して、商工会議所や商工会は年間事業計画書を作成します。これを実行に移すのが長野商工会議所においては9つの委員会であり、我々中小企業政策委員会では、中小零細企業の活性化を目的に、経営発達支援計画の策定と事業承継の支援を行っています。
 経営発達支援計画の策定とは、個々の事業者が現状の課題を認識し、事業計画を作成していく支援です。各々の事業者に向け地域経済に関するデータや業種ごとのニーズ分析などを提供することで、事業者の気付きを促し、その事業体の強み弱みを見出してもらい、合理的な事業計画を練り、これをもとに会社が発展していく力にします。
 事業承継は地域経済全体にとっても大きな問題です。長野商工会議所では、商売をやめようかと思い悩む事業者に税制の優遇措置を紹介するなどして、地域経済を下支えする事業を次の世代につなぐ環境づくりに努めています。
 中小企業政策委員会が担うこれら2つの事業は、私がこれまで技能サービス部会長を務めた頃から関わってきたことですので、今後もライフワークとして取り組んでいきます。ただ、長野市内に1万数千社ある商工業者の大半が従業員総数4人以下で、しかも経営者の多くが高齢化しています。こうした事業者に対し、経営発達支援計画の策定や事業承継が果たしてどこまで出来るのか、という現実的な悩みは常にあります。しかし、事業者の皆さんがお持ちの、自分の商売に関する漠然とした将来像をどうにか具体化し、実現してもらえるようお手伝いをしていきます。

海外との取引拡大が
長野経済発展の鍵

── 今の長野市の経済状況、中小企業が抱える課題についてどうお考えですか。

髙野
 短期的な課題には、まず昨年の台風19号からの復興があります。また、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済の縮小については、北村会頭も加藤長野市長にたびたび陳情し、活性化のための協力を要請しています。市民の皆さんは誰しも、感染拡大を心配する一方で、経済を立て直す必要性も感じていることでしょう。長野駅前の人出も増えてきていますし、あと1〜2か月頑張って、秋ぐらいまでにはこのコロナ禍をしのげる状態にできればと願っています。
 ただし、コロナ問題は決して年内で終息しません。テレビなどでは長い闘いになると言われるものの、具体的にどれほどの期間か明確にする人はなく、航空業界では4年かかるといい、他の業界では3年だという人もいます。結局のところ、ワクチンや治療薬がかかりつけ医で普通に処方されるようになるまで、誰も安心できないでしょう。
 長期的課題はやはり少子高齢化です。長野県は内陸県で海がないので、海外へのアクセスで劣ります。これは長野県にとって免れない制約ですが、今後日本の人口が減少し、かつ生産性が向上すれば、国内で消費しきれないものは必然的に海外の人に買ってもらわないといけません。この先100年を見据えたとき、海外との取引をいかに拡大するかが、長野経済発展の鍵だと考えています。
 長野県の名産品である日本酒やワインなど、農産物を輸出するルートづくりを県全体で後押しする必要があります。マーケットの選定、輸出に伴う言葉の問題、輸送中の品質保全、輸送経費など様々な課題を一つひとつ解決して環境整備を進め、地域経済を海外へ訴求していくべきです。
 今後国内での地域間競争もますます厳しくなるでしょう。幸い、長野県は観光地としてのブランド力、海外からの認知度が高いので、海外展開ではその長所を生かせます。長野を世界へ発信する流れを、長野商工会議所が中心になって作っていけたらと考えています。

会計事務所は
町にとっての基本インフラ

── 髙野さんが代表を務める朝日税理士法人は、地域の中でどんな役割を担っていかれますか。

髙野
 会計事務所は、病院や法律事務所などと同様にその町の基本的なインフラだと思っています。会計を司る人は千年以上も前から必要とされました。遣唐使船でも会計係は重要な位置を占めていたそうですし、江戸時代に放漫財政で潰れていった藩があったことをみても、会計の必要性をご理解いただけると思います。
 現代においては、主に会社経営の健康診断にあずかるのが会計事務所の役割です。医師が人間の身体を治すように、会計事務所は個々の企業の財務上の問題点を見出し、改善策を提案します。そのために数字を管理、分析し、様々な情報を事業者の皆さんにお伝えします。
 会計事務所に求められるニーズは、昔も今も変わりません。きちんと数字をまとめ、間違いのない決算書をつくることです。パソコン処理がどれほど進もうが、お客様がちょっとした税務判断に迷う場面は数多く生じます。特に日本の租税制度は海外のそれに照らし、芸術作品と言われるほど緻密ですから、税法と会計の専門家が必要になるのです。
 今の時代にあって決算書の意義は、第一にその会社と取引する人にとって存在します。また、銀行をはじめ会社の利害関係者にその有り様を知っていただく情報ツールです。ゆえに決算書は真実を語らなければなりません。
 我々は、決算書をもとにその会社の問題点をできるだけ早期に指摘します。決算書はいわば会社の主治医がつくるカルテです。経営者はこれを参考に自分の会社の実態に目を光らせ、税理士・会計士からなされた提案を検討し、自社のあるべき姿を自身で決めていきます。
 優秀な税務会計ソフトの導入が進めば会計の仕事は無くなる、とよく言われますが、実際は私たちの仕事はますます忙しくなっており、これからも会計事務所は町のインフラとして必要とされ続けるでしょう。この先一人でも多くの若い方が会計の道に進んでくれることを期待しています。

 

髙野 善生さんの横顔
休日は庭仕事に勤しむ。夏は自宅の庭で1時間ほど汗を流した後、シャワーとクーラーの効いた部屋で喉に流し込むビールと昼寝が堪らないとか。


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