2020年7月号

View Point

松本 清(まつもと きよし)

長野商工会議所地域交通対策委員長
長野運送株式会社 代表取締役社長

昭和36年 長野市生まれ。昭和59年 早稲田大学法学部卒業。昭和61年 長野運送株式会社入社。平成20年 代表取締役社長就任、現在に至る。

今こそ地域の魅力を見つめ直し
 コロナ後のニューノーマルを
  長野にとって大きなチャンスに

 コロナ禍で運輸業界もその他の産業も大きな打撃を受けています。いまだ地域経済は厳しい状況にあり、一刻も早い事態の収束を願うばかりですが、コロナ後のニューノーマルは首都圏への一極集中を改め、地方に新たな活力をもたらす大きなチャンスともなり得ます。この機会に私たちは地域を見つめ直し、長野の魅力を再認識し、それを積極的に外へ発信していくべきだと考えます。

地域交通対策は
生活者と来訪者2つの視点で

── 松本社長は長野商工会議所地域交通対策委員長に就任されました。ご感想、抱負をお聞かせください。

松本
 前任の長野電鉄㈱笠原社長から重責を引き継ぎました。地域交通といえば主に旅客運送業を想定していると思われますが、貨物運送業に関わる私は、人の動きについては不勉強です。就任について正直戸惑いもありましたが、これから皆様に教えていただきながら務めてまいります。
 地域交通には2つの視点があると思います。一つはこの地域に暮らす生活者の視点、もう一つは観光やビジネスで当地を訪れる来訪者の視点です。それぞれの視点に立つとき、あるべき地域交通はどんな姿か、長野市の担当の方などとも連携しながら探っていけたらと考えています。
 昨年10月の台風19号災害は、今申し上げた生活者の視点からも、また来訪者の視点からも、地域交通に大きな影響をもたらしました。さらに昨今の新型コロナウイルス感染拡大については、特に長野に来訪される方に関わる部分で地域交通は大きな打撃を受けており、たいへん憂慮しています。今後感染者数や規制状況などの推移を見ながら、地域交通が抱える問題を考えていきます。
 来春予定されていました善光寺御開帳は、一年延期されることになりました。18世紀後半天明年間、浅間山の大噴火が起こり、天明の大飢饉も発生したなか、当時の善光寺別当等順大僧正のもと、苦しんでいる人々に向け救済活動が実施され、その後、善光寺本堂における最初の御開帳(居開帳)が行われた、といった記録が残っています。善光寺のこうした歴史のありようは、今回のコロナ禍にも重なるように感じます。5月には長野市民の企画で「共感の鐘」運動が善光寺から全国に広がりました。繰り返しになりますが、いち早くコロナ禍が収まり、御開帳に無事臨めたらと祈っています。
 また、再来年春の御開帳となると、ちょうど諏訪の御柱祭や飯田のお練り祭りなど、県下有数のお祭りと開催時期が重なってきます。北村会頭が「信州ロード」構想を打ち出されましたが、当委員会としてもこの機を捉え、県内観光の回遊性向上のための施策についても研究・実施できればと考えます。

 

経済の復活に向け
地域を見つめ直す機会に

── 運輸業界をはじめ地域経済の現状をどうご覧になりますか。

松本
 人の移動が制限されているので、旅客運送は非常に厳しい状況にあります。貨物運送については、輸出入の大幅な減少や製造業におけるサプライチェーンの混乱や需要の落ち込みにより、BtoBの輸送を中心にやはり深刻な打撃を受けています。一方、食料品をはじめ生活必需品の輸送や宅配などBtoC系の輸送については、エッセンシャルワーカーと呼ばれるドライバーが医療従事者の皆さんに向けられたのと同様の偏見等を一部で受けているとの声も耳にします。ですが、モノを必要とされる皆様へ迅速確実にお届けすることを使命として、感染対策に万全を期しながら社会インフラとしての物流機能を必死で守っています。
 これまで貨物運送業は、業界としての地位が低いと言われてきました。しかし大規模な自然災害が頻発する昨今、物流は必要不可欠なライフラインとして認識されるようになりました。物流が止まれば人々の生活が止まり、命に関わることもあります。そういう自負を持って仕事に当たって欲しいと、私は常々従業員にも話しています。
 他の産業に目を転じますと、非常に大きなダメージを受けている観光産業においては、残念ながらここ数年伸びてきたインバウンド需要が急速に回復するとは考えづらい状況です。観光産業の復活はまず地元での需要から始まり、次いでそれが国内へと広がり、そして世界からのお客様を迎えるという形になるでしょう。そのとき大切なことは、自分たちが地域の魅力を改めて理解し、自身がこの地域を好きになることです。地産地消や地元にお金を落としていただくためのさらなる取り組みも必要となります。つまり、私たちが暮らしている地域の良さを再確認し、率先して地元を盛り上げていく気持ちでその良さを発信していかねばならないと考えます。
 冒頭で私は、地域交通対策は生活者と来訪者という2つの視点から考えるべきだとお話ししました。交通についても他の産業についても、今回のコロナ問題は、私たちが改めて私たちが暮らすこの地域を見つめ直す契機だと思うのです。

 

ニューノーマルは
地方にとってチャンス

── コロナ後の世界がどうなるかに注目が集まっています。

松本
 ニューノーマルという言葉が表すように、様々な面で変容、変化が起きることが予測される一方で、決して変えてはいけないもの、守るべきものが必ずあると考えています。地域における文化もそうですし、人と人との繋がりもそうです。こうしたものを守り続けられるかどうかで、我々の地域力やコミュニティ力といったものが試されています。お祭りも食文化も地域ごとの風習も、守っていくのは決して他所の他人ではなく、暮らしの中でそれに関わっている私たちです。人と人との繋がりも、今回私たちはオンラインの利便性に気付くとともに、改めて面と向き合うリアルなコミュニケーションの重要性も確かめました。特に高齢者や子どもなど弱い立場にある人が、社会から切り離されないよう配慮していかねばなりません。
 また、アフターコロナをあえてポジティブに考えてみることも大切です。今回の件でテレワークが増加しています。首都圏の狭い住まいで、家族も居るなか仕事をしても捗らない方も多いことでしょう。地価や家賃が高額な都市から離れ、近郊に住宅を移したり、お金のある人はセカンドハウスを設けたりといった動きが出てきています。その延長で考えれば、長野市も通信インフラなどデジタル環境の整備を進めていけば、テレワーク用の住まい、あるいは企業のリモートオフィスの候補地としてかなり有望です。
 折しも長野県では、信州をIT人材・IT産業の集積地にすべく「信州ITバレー構想」を策定し、地域の活性化を図るため信州のリゾート地で「休暇」と「仕事」を両立する新たなライフスタイル「信州リゾートテレワーク」の推進に取り組んでいます。実際に地方の使われなくなった建物をリノベーションしてオフィスにしている企業もあります。長野市も新幹線等のアクセスの良さや自然環境の良さなど、その地の利を生かせるはずです。
 他にも今回のことを契機として、長野地域の新しい展望を見いだせる分野がきっとあります。首都圏への一極集中の弊害も改めて明らかになりました。会社から離れていても、あるいは東京から離れていても仕事ができることがわかれば、これは地方にとってはチャンスです。

 

松本 清さんの横顔
幼馴染とバンドを組み演奏を楽しむ。担当はギター。コロナ禍が収束したら、また仲間と集まって音楽に興じたいと話す。


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