2019年11月号

View Point

加藤 修(かとう おさむ)

東日本旅客鉄道株式会社執行役員長野支社長

 昭和41年生まれ。東北大学工学部卒業後、平成2年東日本旅客鉄道株式会社入社。電力関係の保守・メンテナンスや技術開発部門に携わる。平成23年高崎支社設備部長、平成27年鉄道事業本部電気ネットワーク部次長、平成30年鉄道事業本部電気ネットワーク部担当部長を経て、令和元年より現職。

首都圏と北陸をつなぐ長野のポジションと
 新幹線のスピードと快適性を生かし
  地域の魅力を下支えします

 長野新幹線や北陸新幹線は、人の動きや観光のあり方を大きく変えました。そして長野市は、北陸新幹線にあって首都圏と北陸をつなぐ中間点として今後にも可能性を持っています。JRは鉄道事業者として安全な輸送に万全を期しながら、皆さまと一緒に長野の魅力を発信し、実際に長野へ足を運んでいただいて現地でその魅力を体験していただくなど、観光の振興にも貢献してまいります。

新幹線延伸は
長野にもメリットが大きかった

── 長野支社にお見えになって、長野にどんな印象をお持ちになりましたか。

加藤
 長野へはオリンピック当時に出張等で伺ったものの、これまでの勤務は北関東をあちこち回っていましたので、正式に勤務するのは今回が初めてです。改めて思うのは、長野市は首都圏と北陸地方をつなぐ中間点であり、どちらからも訪れやすいということです。それゆえ観光の皆さま、特にインバウンドのお客さまがかなり多いと感じています。また、観光に限らずビジネスでの利用においても、新幹線で行き来される方が相当数いらっしゃいます。多くの方に新幹線をご利用いただき事業者としてありがたく感じております。
 1997年に長野新幹線が開業したことで、東京まで短時間で行けるようになったメリットは、長野にとってかなり大きなものだったでしょう。当時の新幹線は、長野と首都圏をつなぐことが使命でした。次いで2015年に北陸新幹線が開業したことで新幹線はその役割を変えます。かつて北陸と首都圏を結ぶのは、越後湯沢経由の北陸本線がメインでしたが、北陸新幹線ができ、長野がその中継点となることで状況が変わったのです。北陸新幹線は、北陸と首都圏、そして長野と北陸をつなぐ役割も担うようになりました。
 新幹線が北陸へ延伸する際、長野は素通りされてしまうとの懸念があったことは伺っています。しかし、延伸の年の善光寺御開帳がたいへん盛況だったように、新幹線を利用して北陸から長野へ訪れる人の数が増えました。また、長野からも新幹線で北陸へ向かう人の数が増えました。長野にとっても延伸のメリットはデメリットを大きく上回っていると私は感じています。
 インバウンドのお客さまの比率も、上越新幹線より北陸新幹線の方が多いようです。海外からお見えになるお客さまは、広域を周遊される方が多く、そうした皆さまにとって、東京、軽井沢、長野、北陸をつなぐ北陸新幹線のルートは、きっと魅力的に映るのでしょう。

 

新幹線は人の動きと
観光のあり方を変えた

── 北陸新幹線開業により人の動きが変わったということでしょうか。

加藤
例えば、北アルプス登山やスキーを目的に大町白馬方面へ旅行される方の動きが変わりました。新幹線開業前は、東京から特急あずさに乗って松本へ行き、大糸線に乗り換えるのが一般的でした。今は長野まで新幹線で来て、ここからバスに乗って大町白馬へ行かれる方がかなり多くなっています。以前は長野から白馬方面へ行くことを想定する人は少なかったはずです。しかし、交通形態が変わると、人の動きもやっぱり変わるのですね。我々としてもこうした変化を分析し、対応を考えていく必要があります。
 また、新幹線は人の動きを変えただけでなく、広域観光をより容易にしました。長野で善光寺にお参りし、白馬で登山やスキーを楽しみ、立山を経て金沢を回っていくことも、特にインバウンドのお客さまにとって普通になったのです。長野駅前や善光寺周辺に見えるお客さまの中にも、広域観光を楽しんでいる方が多いように見受けられます。JRも鉄道事業を通じてまちの賑わいに関われることを嬉しく思いますし、今後もそうした雰囲気づくりに貢献したいと考えています。
 僭越ながら一つだけ長野についてもったいないと感じることは、長野の皆さまは自分たちが良いと思っていることを胸に秘めがちで、なかなか人前でおっしゃらない点です。こちらから伺うと話してくださるのですが、自分から進んで発信することが少ないようです。わがまちにはこんな良いところがあると、皆さまがもっと言えるといいなと思います。
 私は6月に長野へ来て3ヶ月になりますが、杏が生食できることをここで初めて知りました。地元の人からすると当たり前のことでしょうが、首都圏では生の杏が売られていないので、ほとんどの人が生食できるとは知らないのです。先日、新幹線に杏を載せ東京駅で販売したところ非常に好評でした。イベントの狙いは、生の杏を東京で売ることではありません。「この土地にはこの季節にこんなものがありますので、ぜひこちらへ足を運んで、実際に見て体験してください」とPRし、行ってみようという思いにつなげることです。
 もう一つ、こちらへ来て驚いたのは、皆さん日本酒への郷土愛が強いことです。長野県産のお酒という意味の地酒ではなく、自分たちが住んでいる最寄りの蔵元が醸すお酒を大事にする人が多いのです。小さな蔵もそれぞれにこだわりがあり、多様な味わいの日本酒が長野県にはあります。またお酒を飲ませるお店でも、生産量の少ない銘柄を大切にして、美味しく味わえるよう気遣ってくれます。地酒についても、首都圏や北陸からぜひこちらへ来て、楽しんでいただくと長野の魅力をもっと感じていただけると思います。

 

鉄道事業者として
長野の魅力を下支えします

── 御社は今後どのような役割を地域で担っていかれますか。

加藤
 鉄道事業者として、新幹線では地域経済の振興に関わり、一方で在来線では地元の足を守っていく務めがあり、その両方に携わる難しさは感じているところです。ただ新幹線、在来線ともに共通しているのは、安全であることが鉄道の良さである点です。何をおいても安全の確保には万全を尽くします。そのうえで、在来線においては、通勤通学でご利用になるお客さまに毎日ストレスなく乗っていただけるよう、ダイヤや駅のあり方に配慮していきます。
 かたや新幹線は、スピードと快適性を一層追求します。先程来申し上げているように、長野は首都圏と北陸の中間点ですので、スピード感をもってお客さまをお迎えし、長野周辺のいろんなところを巡っていただく工夫をしていきます。例えば、先ほど触れた杏を東京駅で販売するイベントは、JPさんと一緒になって地元農家の皆さまと連携して開催したもので、ナガノパープルやシャインマスカットでも同様の企画を実施しました。新鮮な果物を速やかにお届けできるのも新幹線のスピードゆえですが、こうした機会を通じて長野の味を知っていただき、今度はお客さま自ら新幹線に乗ってスピードと快適さを実感いただき、現地でしか味わえない経験をしていただきたいのです。
 2021年には善光寺御開帳があります。非常に大きな影響力のある行事ですので、長野を基点とする広域観光の重要な要素として、また長野のまち全体を楽しんでいただく格好の機会として、我々も御開帳を位置づけています。今後地域の皆さまの色々な声を聞かせていただきながら、長野の魅力を下支えできたら幸いに思います。 

 

加藤 修さんの横顔
趣味は山や街道を歩くこと。街道歩きでは、中山道を日本橋から追分宿まで到達。今後北国街道にも挑戦する予定。また、長野の勤務になって飯綱山を歩いた。


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