2018年9月号

View Point

小林 順彦(こばやし じゅんげん)

善光寺寺務総長

昭和40年生まれ。大正大学大学院博士課程満期退学。本覚院住職。大正大学非常勤講師。事務局次長、法務局次長など、責任役員を歴任。平成30年4月、善光寺寺務総長に就任。

善光寺をもっと知っていただき
 より親しんで使っていただくことで
  皆様との信頼関係を強くしていきたい

 この2年間は、次の善光寺御開帳へつなぐ2年間です。境内環境の改善や町の方との協力体制づくり、御開帳を切り盛りする人材の育成、組織連携の強化など、御開帳に臨むための準備を進めます。
 善光寺は、地域や経済界の皆様の応援あっての存在です。その信頼関係をこの先もより強くしていくため、地元の方にもっと善光寺を知って親しんでいただくよう努めてまいりたいと思います。

善光寺御開帳へ向けてこの2年間で
環境整備と人材育成を

── 小林住職は今年4月、善光寺寺務総長に就任されました。抱負をお聞かせください。

小林
 この2年間は、次の御開帳へつなぐ2年間になります。次に寺務総長になられる方が、御開帳の広報、宣伝活動などに神経を傾注していただけるように、その他諸々の環境整備をこの2年間で行っていきたいと思います。次期総長が就任された折に、なるべくスムーズな形で御開帳の準備に入っていただくことが、寺務総長としての私の務めです。
 もう1つは人づくりです。御開帳は、それを切り盛りしてくれる職員さんにある程度の経験がないとやりくりができません。御開帳を担当してくれる職員さんを育てていくことも、この2年間で大変重要になってきます。

 

境内環境の改善、
組織連携で万全の準備を

── 御開帳へ向けた環境整備と人材育成では、具体的にどのようなことに取り組まれますか。

小林
  環境整備では、まず境内の整備に取り組みます。自分で境内を回ってみて、不都合なところや危険なところはないか、トイレはどうなのか、改善すべき動線はないかなどについて確認します。ほかにも本堂や諸堂に不備はないか、掲示物は適正か、インバウンドのお客様への情報発信は行き届いているかなど、考えればきりがないですが、直せるところはできる限り直していきます。
 また、御開帳は善光寺だけでやっているのではなく、町の方、地域の方、特に元善町、仲見世の方々の協力がないと成り立ちません。そこで、善光寺に参拝するお客様が落とし物をされたり、迷子になられたりした場合の放送設備を、元善町商盛会の皆様とつくりたいと考えています。また、リニューアルされる信濃美術館様との連携、交通渋滞などでご迷惑をおかけしている箱清水、新田町の皆様への配慮も環境整備に向けた課題です。
 次に、人づくりについて。御開帳は、日常と違う殺気立った雰囲気の中で、エマージェンシーなことがいろいろと起こります。普段でしたら、職員さんはお客様に一対一で冷静に向き合い、ご案内したり、フォローしたりすることができます。しかし、御開帳時の人の多さ、それぞれの皆様の想いの強さを前にすると、たとえベテランの職員さんであってもパニックに陥ることがあります。そのようなことにならないためにも、事前に連絡体制、危機管理体制、組織としてのQ&Aをつくること、各課が自分の分担を超えて臨機応変に対応できるよう、普段から課を横断した信頼関係を築いていくことが大切だと思っています。
 また善光寺の寺務は、職員さんと我々僧侶が一緒になってやっています。職員さんだけではできないこと、僧侶だけではできないことが当然あります。職員さんが問題を過剰に抱えることがないよう、僧侶との間で情報を共有することに努め、万全の状態でその時を迎えられる体制を整えたいと思います。

 

地元の方に善光寺を
もっと知っていただきたい

── 善光寺と地域、経済界とのつながりについてはどのように感じていらっしゃいますか。

小林
 私もいろいろなお寺さんとお付き合いがありますが、善光寺ほど行政や企業と密接な関係を持っているお寺は少ないと思います。寺務総長に就任してから、長野市はじめ長野商工会議所、(公財)ながの観光コンベンションビューローなど、いろいろな方と懇談させていただきました。皆様には、いつも「善光寺さんのおかげ」と言っていただくため、大変ありがたく思っています。しかし、善光寺だけが偉いわけではなく、皆様の応援あっての善光寺です。この関係はずっと前から続いてきたものですので、私もこの大切な信頼関係をしっかり次へつないでいきたいと思っています。
 それぞれの立場でできること、できないことがあります。そのような時に、「こうしてみたらどうだろう?」「こんなことはできるかな?」と気軽に問いかけし合える環境をつくること、できないことがあった場合でも、なるべく期待に応えられるように、組織の内外でコンセンサス形成に努めることがもっと必要になってくるでしょう。
 そのためにも、地元の方にもっと善光寺を知っていただきたい。善光寺はとても開かれたお寺ですが、何かお願いごとをする段になると、敷居が高いと感じる方が多くいらっしゃるように思います。しかし、そのように感じていただく必要は全くありません。ご要望があれば、私の方から皆様のところへ伺い、御本尊のこと、建物のこと、年間行事、昔から日本人が持っていた善光寺信仰、皆様の住んでいらっしゃる町に通る参拝のための道や宿場についてお話しします。そうして、より多くの皆様に善光寺に対して興味や親しみを抱いていただけたら、いろいろな方との連携の輪も広がっていくと思うのです。良い例が、大獅子奉納を機に篠ノ井の方が「おらが町の御開帳」と思ってくださっていることです。
 また、地域の方にも、経済界の皆様にも、もっと善光寺を使って欲しいと思っています。公益性のあることでしたら、私どもは喜んでご協力いたします。灯明まつりにしても、お盆縁日にしても、1年を通じて善光寺で何かが催されていれば、日常的により多くの皆様が善光寺へおいでくださり、善光寺と地域の距離はますます縮まると思います。善光寺は難しいことを言わないお寺ですので、地域活動でも企業活動でもお気軽にお声掛けいただければと思います。

 

善光寺に寄せられる信仰心に
地道に応え続ける

── これからの時代における善光寺の役割についてはどのようにお考えですか。

小林
 SNSはじめ新しい仕組みを取り入れることを疎かにはしません。一方で、善光寺には1、400年続いてきた歴史があります。自分が生まれてから死んでいくまでの時間は、その歴史の中のわずか一点に過ぎないのに、歴史が脈々とつないでこられたのは、善光寺が持っている、そして日本人が持っている信仰の力があったからだと思っています。
 全国から善光寺まで歩いて参拝に来られた時代が長くありましたが、現在は、電車や車で参拝できる時代になり、信仰の形態は変わりました。しかし、お参りにおみえになる皆様のお気持ちは変わりません。我々は奇抜なことをやるというより、その信仰心にお応えできるよう、地道で地味な取り組みを、いろいろな方からアイデアをいただきながら、時代に合わせてやっていくことが肝要です。
 例えば、善光寺の住職はそれぞれ宿坊を営んでいます。お泊まりにおみえになるいろいろな方の想いに丁寧に対応することで、「善光寺に来てよかった」「肩の荷が下りた」「また来ます」と言っていただくことが、住職なり案内人の務めです。
 善光寺の開かれた姿が、日本人が本来持つ大らかな感性とマッチしているからこそ、善光寺に寄せられる信仰があり、その歴史が続いてきました。そのことを若い僧侶の方達にも学んでもらいながら、これからも善光寺が日本人の心の拠り所であり続けることを願っています。

 

小林 順彦さんの横顔
善光寺の寺務、宿坊での法話、大学での講義など多忙な日々を送りながら、無趣味ではいけないと、最近、三線を始められた。


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