2017年11月号

View Point

近山 俊也(ちかやま としや)

長野商工会議所飲食観光サービス部会長
株式会社長野ホテル犀北館取締役

 

 

永続的価値を有する街の創出に向けて
 ~「文化が薫る街の再現」~
⇒主題の実現のための観光都市マスタープランの策定

 長野の旅館・ホテルや飲食店業界は、閉塞感が漂う現状にあって多くの課題を抱えています。こうした課題に対し、飲食観光サービス部会では、まず肌感覚ではなく地域構造分析に基づいたデータで地域の現状を把握します。そのうえで、例えば善光寺を核として松代、戸隠などの神社仏閣や自然資源などとの結合による観光振興、また農商工連携などを活用した高付加価値産品の創出や域内調達率の向上、及び域内消費率を高めることで地域のより良き経済循環の実現を目指します。

地域市民の利用促進が
課題のひとつ

── はじめに長野商工会議所飲食観光サービス部会長に就任されての抱負をお聞かせいただき、併せて長野地域の飲食観光サービスの課題についてお話しください。

近山
 就任後初めての部会長会議の折、北村会頭から「観光の振興は、長野市の雇用や景気に幅広く大きな影響をもたらすので、ぜひ頑張ってほしい」とのお言葉をいただきました。その重責をひしひしと感じているところです。
飲食観光サービス業の課題として、まずホテルの年間平均稼働率が低いことが挙げられます。全国の県庁所在地都市の年間平均稼働率が60~80%なのに対し、長野市のそれはここ数年間40%前後で推移しており、たいへんに低い水準にあります。また、シーズンのオンとオフ、休前日と平日など、変動の波が大きいことも問題です。
 また、当部会に属する約700会員のうち飲食店の皆さんは7割を超え、観光客需要の取り込みもさることながら、地域に住む皆さんの利用促進にもこれまで以上に取り組む必要を感じています。これには、全国800市町村のなかでも長野市は大型店での消費の比率が高いことも背景にあるかと想像します。
 冒頭のタイトルやリードにあるように地域のポテンシャルを高めることが飲食店にとってもまた観光業界にとっても必要命題であり、部会員の皆さんにおかれては現在の状況に危機感をもって部会活動に参加していただいています。

 

現状や改善効果を
感覚ではなくデータで示す

── そうした課題に対し、飲食観光サービス部会では何から着手されますか。

近山
 まずは部会として地域の現状分析に取り組みます。北村会頭のお言葉のとおり、観光の振興が地域の経済全体に及ぼす影響は小さくありません。つまり、飲食観光業が地域経済に対して現状どれほどの比重を占めているのか、また経済力向上のためにどのような施策を打ち出すことが必要かなど、私たちが今後やるべきことを知ることができます。
 経済産業省では観光経済波及効果として次の3要素を挙げます。第1に旅行客数つまり入客数、第2に客単価、第3に域内調達率です。特に重視している指標が3つ目の域内調達率です。飲食店や土産店で扱う産品の域内調達率が高ければ、観光経済波及効果が高いと判断できます。そのためにはまず地域経済構造分析が必要です。
 例えばの話ですけど、もし長野市が販売品の原材料の多くを県外からの輸入に頼っていたとしたら、農業など原材料産業の皆さんは恩恵を蒙りませんよね。つまり地域におカネが落ちない、購買力が上がらないから地域消費に回らない(飲食に回らない)。これは事実と全く逆かもしれませんが、地域経済構造分析を行うことで現在の長野市の構造が明らかとなり、問題点の抽出から、講ずべき施策まで導けるのではないでしょうか。併せて内消費率も地域経済活性化のための重要なキーワードです。特に私たち飲食観光業に携わる中小企業にとっては観光客と同等かそれ以上に地域住民の方々の利用促進が大きな課題です。
また部会活動から派生するもの、例えばまちづくり(観光)や商店街の活性化・再生(飲食)、農商工連携(売るもの~食品や土産品、その他産品の創出)などにおいて、商工会議所が事業主体となれるものは数多く、部会を超え会議所の皆様にご協力をお願いする場面も多く出てくるものと思われます。

 

善光寺を核とした
ハブ&スポークで観光振興光寺

── では、観光の振興についてどんな具体策を構想されていますか。

近山
 1つ目は、長野駅から善光寺に至る参道の開発です。建築家の宮本忠長先生はかつて、この2㎞にも及ぶ参道は全国的にも希有で地域にとって大きな資産であり、これを活かすことが重要だと言われました。たとえば善光寺界隈には伝統的な宿坊もあれば、近年は新しいお店もできており、まちが面白くなってきていると感じます。小さな路地に入って思わぬ発見があるとまち歩きは楽しいものです。善光寺界隈とそこへ至る参道も今後の開発の仕方によっては、京都や鎌倉で私たちが感じるような歩いて魅力ある街になれるはずです。そして昼も夜も、また観光客ばかりでなく地元の方も日常的に歩いて楽しめるまちになれば、参道周辺から周辺の飲食店の入客数も増加することでしょう。
 その際大切なのは、まちの文化的な価値に重きを置いた一体的な開発です。善光寺御開帳は1度に700万人を集めてしまう大盛儀ですが、これほどの効果に見合う投資をほかの事業やイベントですることは不可能です。善光寺は宗派や老若男女を超えて広く信仰を集めるお寺であり、その存在は私たちにとってかけがえのない価値です。一般的に京都や奈良の仏閣は観光的な要素が強いのに比して、善光寺は庶民の純粋な信仰の対象であることの認識が大切と思われます。
 善光寺を中核とする宗教都市としての長野のイメージをうまく演出しアピールできれば、それが他所では感じられない長野の文化の薫りとなり、自然と人が集まってきます。文化の薫る長野のまちの創造がテーマです。
 さらに、市街地周辺には、外国人にも人気のある戸隠神社、松代の寺社などほかにも信仰の対象が数多く、もとより自然資源にも恵まれています。善光寺を中核として、これらの拠点とをうまく結び、ハブ&スポークの効果で地域全体の観光振興を図っていきたいと考えています。
 また当部会には旅行代理店の皆さんが部会員として参加して頂いています。この皆さんの蓄積されたノウハウや域外への発信力は非常に大きく、飲食業、旅館・ホテル業との協働により成果に繋がっていくものと確信しています。
 2つ目は、域内調達率の向上です。飲食店や旅館、ホテルが長野の産品の活用を積極的に考えるうえでキーとなるのが、扱う産品の他所にはない付加価値性です。もともと長野は、農産物や工芸品などの分野で作り手の技術力が高いことも1つの優位性です。農工分野の皆さんはどんな商品をつくることができるのか、一方消費者に近い我々はどんな商品を求めているのか、互いの交流の場を設けることで、情報を交換し、作り手と売り手が連携して付加価値の高い新商品を創りだしたり、既存のものにさらに付加価値をつけ足していく必要があります。もちろんそうした場づくりは、当会議所こそ主体となれる事業です。こうした取り組みを通じて域内調達率が向上することにより、結果として地域のなかでお金が回る仕組みができ、1次産業の振興や高齢者の皆さんの人材活用と生産性の維持、ひいては食料自給率の向上にもつながると考えます。
 強調したいのは観光投資や施策が所得の向上につながるばかりでなく、現在抱えているまた今後発生し得るであろう地域が抱える諸問題の解決の一助にもなり得ることです。これには、観光に関わる事業者の努力のみでは叶わないものもあります。たとえば、高齢化、中山間地ばかりでなく今後都市区域でも確実に発生する空き家問題、交通弱者対策、冬の除雪など、地域が抱える社会的問題が解決されていかないと、飲食店や旅館、ホテルのポテンシャル向上も思うに任せない部分があります。こうした問題についても、ほかの組織との連携のなかで解決の糸口を探っていけたらと思います。

 

近山 俊也さんの横顔
趣味は、名所旧跡、美術館・博物館などを巡るまち歩きとゲーム(80過ぎても額に青筋立ててコントローラーを叩いていると思います)。


ページ: 1 2 3