人きらっとひかる
三原屋の店舗と醸造蔵から
食文化の「物語」を発信したい
河原 清隆さん
一心味噌醤油醸造元 株式会社 三原屋 代表取締役
長野市桜枝町で170年近い歴史を刻む三原屋の店舗と醸造蔵が、平成28年度の「第29回長野市都市景観奨励賞」に選定されました。2度の大地震を経てなお美しさと頑健さを保ち続ける建物は、「現代とは思想が異なる建造物」と見る6代目当主の河原清隆さん。醸造業という食文化の継承を本業として、歴史的建物から物語を伝えていきたいと語ります。
江戸から明治のにぎわいを
伝えながら、今も生きている建物

29回を数える長野市都市景観賞。これまでの受賞の多くは新築の建物や修景、改修といった作品ですが、平成28年度は歴史的建造物が奨励賞の一つに選ばれました。美しさのみならず、町並み形成に果たす役割、建築物としての機能や価値などが高く評価されたその建物は、桜枝町の味噌醤油醸造元、三原屋の店舗と醸造蔵です。
1847(弘化4)年の善光寺地震後に竣工したと見られる土蔵造りの建物は、長野市誕生のずっと前からにぎわっていた善光寺西界隈の風情をたたえ、今も現役で活躍しています。
「当時の最新技術を駆使して造られたのでしょう。現代とは建築思想が違います」。子どもの頃からこの建物に親しみ、生活してきた6代目当主の河原清隆さんの実感です。1941(昭和16)年に震度6の長沼地震を経験した建物の随所には古い修繕の跡が見られます。「壊れた部分が二年前の神城断層地震と重なるので、建物が過去の災害の〝生き証人〟であることがわかるのですよ」。
自然の素材を巧みに使い、建築に携わった職人たちの命よりも遙かに長く使われていくことを見据えて建てられた土蔵。なんと、神城断層地震で歪んだ箇所が元へ戻ろうと、今も静かに動き続けているのだそうです。「そのような意味でも、建物は生きているのです」。河原さんは、あるがままの姿を残しながら、将来に向けて維持していく最良の方法を検討しているといいます。「全面改築してしまうと、昔の技術や思想が残りませんからね。それは、味噌醤油の伝統を伝えていくという三原屋の姿勢にも通じます」。
1847(弘化4)年の善光寺地震後に竣工したと見られる土蔵造りの建物は、長野市誕生のずっと前からにぎわっていた善光寺西界隈の風情をたたえ、今も現役で活躍しています。
「当時の最新技術を駆使して造られたのでしょう。現代とは建築思想が違います」。子どもの頃からこの建物に親しみ、生活してきた6代目当主の河原清隆さんの実感です。1941(昭和16)年に震度6の長沼地震を経験した建物の随所には古い修繕の跡が見られます。「壊れた部分が二年前の神城断層地震と重なるので、建物が過去の災害の〝生き証人〟であることがわかるのですよ」。
自然の素材を巧みに使い、建築に携わった職人たちの命よりも遙かに長く使われていくことを見据えて建てられた土蔵。なんと、神城断層地震で歪んだ箇所が元へ戻ろうと、今も静かに動き続けているのだそうです。「そのような意味でも、建物は生きているのです」。河原さんは、あるがままの姿を残しながら、将来に向けて維持していく最良の方法を検討しているといいます。「全面改築してしまうと、昔の技術や思想が残りませんからね。それは、味噌醤油の伝統を伝えていくという三原屋の姿勢にも通じます」。
理論だけでは予測できない
食の安全と安心がある
河原さんは学生時代に味噌醤油は「時代に取り残された産業」と感じ、家業を継ぐことは考えずに大学で石油化学を学びました。就職後、微生物によって飼料用アミノ酸や抗がん剤を生み出す研究に没頭。その後も経腸栄養剤や腸管洗浄剤など医療分野での商品開発に従事します。
その過程で、「人間の健康は土壌や食物に含まれる微生物の分解物によって維持されているのかもしれない」という最先端の研究に触発され、「手づくり料理を食べることによりヒトは環境とつながっているのでは?」と考えるようになりました。そして、子どもの頃から身近だったホームメイドの味噌醤油、つまり手作りの発酵食品と、それを取り入れた「伝統的な食文化」こそ人の健康に欠かせないとの確信を深めていきました。
家庭で発酵させる「仕込みそ」は、家ごとに異なる微生物の違いによって我が家だけの味になります。それは家族の健康を育む「おいしさ」でもあります。そんな食文化を広めることが社会貢献になると感じた河原さんは家業に戻り、経営者として歩み始めました。
醤油も「桶火入れ」と呼ばれる伝統の製法にこだわります。昔の醤油職人は非加熱の生醤油を使わなかったという伝承にも、科学的な根拠があるというのです。
「昔から食べ続けられてきた食品には、理論ではなく、実証された安全と安心がある」と、河原さん。「世代を越えて受け継がれる食文化にも存在する理由があると思うのです」。
その過程で、「人間の健康は土壌や食物に含まれる微生物の分解物によって維持されているのかもしれない」という最先端の研究に触発され、「手づくり料理を食べることによりヒトは環境とつながっているのでは?」と考えるようになりました。そして、子どもの頃から身近だったホームメイドの味噌醤油、つまり手作りの発酵食品と、それを取り入れた「伝統的な食文化」こそ人の健康に欠かせないとの確信を深めていきました。
家庭で発酵させる「仕込みそ」は、家ごとに異なる微生物の違いによって我が家だけの味になります。それは家族の健康を育む「おいしさ」でもあります。そんな食文化を広めることが社会貢献になると感じた河原さんは家業に戻り、経営者として歩み始めました。
醤油も「桶火入れ」と呼ばれる伝統の製法にこだわります。昔の醤油職人は非加熱の生醤油を使わなかったという伝承にも、科学的な根拠があるというのです。
「昔から食べ続けられてきた食品には、理論ではなく、実証された安全と安心がある」と、河原さん。「世代を越えて受け継がれる食文化にも存在する理由があると思うのです」。
未来へつないでいく
「物語」を発信したい

そうした食文化を後世に伝えていくことが生産者の重要な役割と、河原さんは考えています。醤油やめんつゆを工業的に大量生産できない開放釜でつくるのもその一例です。
また、地域の子どもたちの食育活動の支援や、地元のイベントへの参加を通じ、情報を広く発信していくことにも積極的に取り組んでいます。
ちなみに河原さんの長男、史明さん(2003年生まれ)はNAGANO検定の最年少合格者。地域の魅力の担い手、発信者として今後が期待されます。
「建物にしろ、食品にしろ、その時代の文化を担う作り手の想いが込められているのだと思います。そのような想いをなるべく忠実な形で残し、『物語』として未来に発信していきたいですね」。
また、地域の子どもたちの食育活動の支援や、地元のイベントへの参加を通じ、情報を広く発信していくことにも積極的に取り組んでいます。
ちなみに河原さんの長男、史明さん(2003年生まれ)はNAGANO検定の最年少合格者。地域の魅力の担い手、発信者として今後が期待されます。
「建物にしろ、食品にしろ、その時代の文化を担う作り手の想いが込められているのだと思います。そのような想いをなるべく忠実な形で残し、『物語』として未来に発信していきたいですね」。
2017年2月号 CONTENTS
- View Point
- 伊藤 隆三氏 長野商工会議所副会頭 株式会社守谷商会代表取締役社長
- 私のお店・私の会社
- 篠ノ井整骨院/パン屋小坂/フフレキッチン/トライクジャパン長野
- 人きらっとひかる
- 河原 清隆さん 一心味噌醤油醸造元 株式会社 三原屋 代表取締役
