2016年9月号

View Point

原山 隆一(はらやま りゅういち)

長野県教育委員会教育長

昭和32年生まれ。東京大学法学部卒業後、昭和55年長野県採用。ビジネス誘発課長、東京事務所長、政策評価課長、情報公開・私学課長、秘書課長、企画部長、企画振興部長を歴任。総務部長を経て、平成28年4月より現職。

次代を担う子どもたちが
逞しくしなやかに生きるため、
地域と学校が協働する仕組みづくりを

 これまでの延長線上にない新しい時代に子どもたちが逞しくしなやかに生きるために、身につけた知識や技能を自ら活用しながら、仲間とともに課題を見つけ、仮説を立て、解を導く能力が必要です。一方、こうした能力は、学校の学習だけで備わるものではありません。企業の皆様をはじめ地域と学校が一緒になって、子どもたちを育てる仕組みをつくっていきたいと思います。

課題を見つけ、仮説を立て、
解を導く力を

── 今年4月教育長に就任され、長野県のこれからの教育について、どんな方針で臨まれますか。

原山
 今日はこの「会議所だより」の読者である商工業者の皆様を意識したお話をしたいと思います。
 教育の目的は、次代を担う子どもたちに必要な力を身につけさせることにあります。そのためにまず、彼らが向き合う社会とはどんなものかという、時代認識が重要です。
 第一に、答えのあった時代から答えのない時代へと変わりました。
工業社会の日本には基本的なモデルがあり、社会に出るにはこれに適応する力を身につければよかった。ところが、世界がポスト工業社会に入ると、手本となるモデルはどこにもない状況となりました。とりわけ日本は、少子化や高齢化をはじめとして、他の国がまだ直面していないレベルの問題をいくつも持つ課題先進国となっています。
 第二に、未来の予測が困難な時代になりました。グローバル化の進展や、IoT、ビッグデータ、AIに代表されるデジタル革命など、社会の変化が加速度的に激しくなり、人間社会のありようが大きく変化しています。こうした変化に伴う軋みも生じています。結果として、将来を見通すことが極めて不確実になりました。
 ではそうした社会で、子どもたちが逞しくしなやかに生きるために、どんな能力が必要でしょうか。これまでのように、所属する組織の指示に従い、与えられたモデルにできるだけ早く正確に適応する知識や技能を習得するだけではなく、これらを自ら活用する思考力、判断力、表現力が求められます。さらに、自分一人の力は限られているので、チームを組み、仮設を立て、周りを説得して新たな価値を創造する力が必要です。そのための主体性、多様性、協働性といった能力・資質の育成を含め、新たな時代に対応する学びの転換、改革を図らねばなりません。
今後導入が予定される新学習指導要領でも、アクティブラーニングの手法を使った課題解決型の学習に重点を置いています。また、学校のなかだけでなく、実践の場である社会や地域との関わりのなかで、自分で課題を見つけ、仲間と仮説を立て、解を導き出す学習も進めていきます。
 信州人はもともと学ぶ意欲が高い県民です。長野県は、江戸時代に寺子屋の数が日本一でしたし、明治期にはいち早く近代の学校教育制度を整備し、就学率は日本一でした。時代の転換点において、信州人は学校教育制度の有効性を理解し、全国に先駆けてこれに取り組みました。信州人の伝統とDNAを受け継ぐ我々は、今求められている学びの改革においても、全国のフロントランナーになれると信じますし、そうありたいと願います。

 

ふるさとを好きになる
学習機会を提供

── 長野県の企業は、県内で活躍してくれる人材を求めています。地域に貢献する人材育成をどう進めていきますか。

原山
 この問題については、2つの視点があります。まず、地域の産業に貢献できる資質能力を子どもに身につけさせ、一方でそうした資質能力を活かせる場を確保すること。新しい時代と向き合うのは企業も同様です。これに関しては、産業政策に依存する部分もありますので、他部門と連携しながら、次代にふさわしい地域産業、企業の発展に県をあげて取り組む必要があります。
 次に問題となるのは、新しい資質能力を身につけた人間が、自分を活かせる場があるにも関わらず、県外に出てしまう状況です。これを乗り越えるには、信州で活躍したいという気持ちを彼らに抱いてもらえるか、このふるさとが好きだと思ってもらえるかが重要です。
 県が実施している取り組みのひとつに、信州型コミュニティースクールがあります。これは、学校と地域住民が協働して、子どもを育てる仕組みです。各学校に学校の代表者、学校支援ボランティア、コーディネーターなどで構成される学校運営委員会を設け、これが主体となって、その地域においてどんな子どもを育てるか考え、そのための機会を子どもたちに提供します。県では平成29年度中にすべての小中学校にこの仕組みを設けます。地域との関わりのなかで、大人が活躍する姿を子どもに見せ、あるいは彼らにも体験してもらうことで、ふるさとを好きになり、将来もそこで暮らし働きたいと思ってもらうことも狙いの一つです。
 今の子どもたちは自己肯定感が低いと言われますが、自分自身が嫌いな子は、自分が育ったプロセスも嫌っています。つまり自分が嫌いで、親が嫌い、学校が嫌い、地域も嫌い。そこでまずふるさとを好きになってもらい、自分のことも肯定して成長してほしい。そんな願いも信州型コミュニティースクールには込められています。
 もう一つは、企業の皆様にもご協力いただいているキャリア教育です。産官学が連携して市町村ごとにプラットフォームをつくり、小中学校から高校まで、さまざまな就業体験やインターンシップなどを実施しています。子どもたちには、社会とはどんなものか知る貴重な機会となっています。
 他にも、高校では信州学と題し、地域について知ってもらい、地域の課題を自分たちで考えることで、自らが地域をつくる当事者であると意識してもらう授業もしています。また、学びと働きを連携させた信州創生のための新たな人材育成モデル事業では、県内4地域をモデルに学校での学びと地域での実践的な働きが相乗的に営まれるデュアルシステムを構築し、産業界が求める人材の育成と地域の魅力を活かした活躍の場を創出します。

 

社会が一つになって
子どもを育てる仕組みを

── 読者である商工業者の皆さんにメッセージはございますか。

原山
  子どもを学校だけで育てる時代は終わりました。企業の皆様も含め、地域が一緒に育てていく時代です。今後求められる資質能力を子どもたちに身につけさせるため、企業の皆様にもその機会をぜひ提供してほしいのです。
 子どもたちは、自分たちの地域にどんな企業があるのかよく知りません。身近な会社が、実は先進的な技術で世界とつながっていることも知りません。彼らにとっていちばん必要なのは、こんなに格好いい大人たちが、ふるさとで頑張っている姿を身をもって知る機会を得ることです。
 これからは、長野商工会議所さんとも手を組みながら、地域がひとつになって子どもを育てる仕組みをつくっていきたいと思います。是非ご協力をお願いします。

原山 隆一さんの横顔
入庁以来ずっとテニスを続けている。スキューバダイビングのライセンスも50歳を過ぎてから取った。ゴルフも20年ぶりに再開するなどスポーツ好き。


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