2016年8月号

View Point

濱田 州博(はまだ くにひろ)

国立大学法人信州大学学長

昭和57年3月 東京工業大学工学部卒業
平成7年3月 米国ノースカロライナ州立大学繊維学部 客員研究員
平成14年10月 信州大学繊維学部 教授
平成22年4月 信州大学 繊維学部長
平成25年4月 信州大学大学院 理工学系研究科長(工学系研究科長)
平成26年3月 信州大学 先鋭領域融合研究群長
平成26年4月 信州大学学術研究院 繊維学系長
平成26年4月 信州大学学術研究院 教授(繊維学系)
平成27年4月 信州大学大学院 総合工学系研究科長
平成27年10月 信州大学長(現職)

各学部の専門性と横の連携で
 地域企業のご要望に
  幅広く対応していきます

 県内5カ所にキャンパスがある信州大学は、地域ごとのインキュベーション施設や企業会員組織などを通じて産官学連携が進み、また地域を超えた連携も生まれています。今後も地域の要望にきめ細かく幅広く対応していきますので、どうぞお気軽に最寄りのキャンパスに足を運んでください。
 また、学生の県内企業への就職を増やすためにも、両者の接点を増やす工夫をしていきます。

「たこ足大学」が
連携のメリットに

── 信州大学は、地域貢献度ランキング(日本経済新聞社産業地域研究所調べ)で4年連続総合1位に輝くなど、地域とのつながりがとても評価されています。

濱田
 いろいろな要因があると思います。第一に信州大学には5つのキャンパスがあり、北信、東信、中信、南信のすべてに所在しています。かつてはたこ足大学と言われ、広い県内にキャンパスが点在していることのデメリットばかり強調されていました。しかし、各々のキャンパスが地域と密な接触をすることで、長野県全体で連携が生まれ、進んでいます。たこ足も今となってはメリットとなっているのです。
 また、それぞれのキャンパスで研究内容は異なりますが、産学連携など共同研究については、どの分野に関しても最寄りのキャンパスが窓口として機能します。たとえば、ものづくりに関することで相談したいとき、長野市の工学部へ行かなくても、松本や上田や伊那でもお近くのキャンパスへお越しいただければ、工学部のしかるべき研究室へつなぎます。これも信州大学の強みだと思っています。一般的な国立大学では、所在する都市との関係が最も強くなりますが、信州大学では、県内のいろんな地域の皆様と様々な学部がつながることができます。
 第二に、松本キャンパス、長野工学キャンパス、上田キャンパスに、インキュベーション施設を持っていることが挙げられます。
それぞれに企業様向けのレンタルラボがあり、共同研究が進められています。他大学に比べかなり充実しているのではないでしょうか。長野工学キャンパスには、経済産業省の補助金によるSASTec、長野市との連携拠点UFONaganoが、また上田には経済産業省関連のFii、上田市関連のARECが、そして松本にも経済産業省の信州メディカルシーズ育成拠点があります。地域に密着したインキュベーションがあることが、産学が密にできる基盤になっています。
 第三に、それぞれのキャンパスが企業会員組織を持っていることも大きな要因です。
長野の工学キャンパスにはものづくり振興会、上田にはAREC・Fiiプラザ、ここ松本には信州メディカル産業振興会、伊那には伊那谷アグリイノベーション推進機構があります。長野や上田ですと、それぞれ200社以上が会員となり、交流会やイベントを催しています。こうした場が、地域と大学とのつながりを強くする大切な機会になっています。

 

連携の相談は気軽に
最寄りのキャンパスへ

── 現在進んでいる産学連携や官学との連携のなかで、旬な話題をご紹介いただけますか。

濱田
 工学部では、COI(革新的イノベーション創出プログラム)として、世界の水問題に貢献する研究が行われています。日立や東レなど大手企業が中心に進めるプロジェクトであり、社会実装つまり実用化まで含めた研究をしている点が大きな特徴です。
 また、歩行アシストサイボーグプロジェクトというのがあります。これまでも「着る」タイプの生活動作支援ロボットcuraraを産学官金融連携でつくってきましたが、現在は体内埋め込み型タイプの開発を目指しています。こちらには県内企業も関係していますし、学内でもバイオメディカル研究所の齋藤教授、国際ファイバー工学研究所の橋本教授、環境・エネルギー材料科学研究所の手嶋教授など全学が連携してプロジェクトに取り組んでいます。
 現在、学内的にも学部の壁を越えて融合的な研究をしようという機運が高まっており、農工連携、医工連携などが盛んに行われています。たとえば、工学部ではレタスを収穫するロボットを研究しており、これも農工連携のひとつです。先ほども最寄りのキャンパスに相談をお寄せくださいとお話ししましたが、学内には多様な研究分野があり、こうして学部間同士の連携も進んでいますので、地域の企業の皆様のご要望に対し、全学をあげてきめ細かく、そして幅広く対応できると思います。たとえば長野の皆様なら、工学部やものづくり振興会などへお気軽にお問い合わせください。
 官学連携では、松本市でしたら健康寿命延伸に向けて医学部がお手伝いしたり、芸術の街づくりに関しては人文学部がお手伝いしたりしています。長野市では先ほどお話ししたUFOのように工学部と行政との関係が密ですし、教育学部では県の教育委員会との連携も深めています。地域での連携については、それぞれの場所にそれぞれのやり方があるようです。信州大学の前身がそれぞれの地域のニーズに基づいて誘致された経緯ゆえ、各キャンパスと地域が密着したお付き合いができるのかもしれません。

 

県内企業と学生の接点を
もっと増やす必要

── 信州大学の学生はその独創性が産業界からも評価されていますが、地元への就職率を今の4割からさらに増やしてほしいとの声もあります。

濱田
 信州大学の今年度の入学者における長野県出身者は26%です。他は関東から24%、東海から20%、近畿から10%といった具合に、日本全国すべての県から学生が集まっています。一方、関東の大学は関東ローカライズされていて、早稲田大学でも75%が関東出身者と言います。信州大学は、非常に人材のバラエティが豊かで、いろんな地域の人と出会える環境にあります。それが面白い人材が育つ一因かもしれません。また、長野県出身者でも自宅から通える人は少なく、8割以上が一人暮らしをしています。4割の学生が長野県での就職を選択しているのは、一人暮らしをしてみて、その環境の良さを知ったからでしょう。
 一方、県内に就職した4割というのは、学部卒業生のことです。理学部、工学部などでは5割から7割の学生が修士に進みます。院生の県内就職率は3割ぐらいに減ります。長野県出身者が26%なので、単純にこの数字だけを比べると増えているものの、地元経済界からご指摘のとおり、教員や公務員として県内に就職している学生が多いのも事実です。県内製造業へ就職した人は、学部卒、修士修了ともに80人くらいです。
 この数字はもう少し増やさなくてはいけないと思っています。理学系も工学系も修士に進む学生は、研究ができる環境で仕事をしたいと望んでいますから、東京に本社があり、研究環境の整った大手企業を選ぶということもあるのだと思います。県内にも優れた研究をする企業が数多くある一方、残念ながら県内の企業を知らない学生も多いのです。先にお話しした共同研究やインターンシップなどを通じて、県内企業が何をやっているのか学生に分からせることも重要ですし、これに限らず学生と長野県企業との接点を数多く設けていくことが必要かと思います。

濱田 州博さんの横顔
ご自宅は上田にあり、平日は松本、週末は上田での暮らし。オフには、健康のために1時間ほど歩くほか、日帰り温泉を楽しんだり、ローカル線に乗って県内を巡ったりする。


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