2016年5月号

View Point

芝山 豊氏(しばやま ゆたか)

清泉女学院大学・清泉女学院短期大学 学長

大阪外国語大学、神戸海星女子学院等阪神地方での勤務を経て、平成10年、清泉女学院短期大学国際文化科着任。平成15年より清泉女学院大学人間学部教授。平成27年より現職。専門は比較文学。平成18年、モンゴル作家同盟文学功労賞受賞。

 

地域の皆様の連携を強化し
 長野発のビジネスモデルや
  社会モデルを提案します

 創立以来長野の女子教育に携わってきた清泉女学院は、女性が地域を支える存在として地域にあり続けるため、産業界とより強固な信頼関係を築こうと、昨年長野商工会議所と包括連携協定を締結しました。これからも深い人間理解に基づいた専門職を地域に送り出す一方、地域の皆様のご協力をいただきながら、長野発のビジネスモデル、社会モデルを提案してまいります。

清泉の存在意義は、
長野地域のための女性教育

── 昨年8月、清泉女学院大学・清泉女学院短期大学と長野商工会議所との間で、包括連携協定が締結されました。その趣旨と経緯についてお話しいただけますか。

芝山
本学では、2008年に清泉女学院地域連携センターを立ち上げ、地域との信頼関係の構築に努めてきました。また、長野商工会議所との間でも、インターンシップの実施、伝統行事やお祭りへのボランティア参加などを通じて、関係を深めています。今回の連携協定により、一層地域の発展に寄与したいと考えました。
 締結した協定の連携事項は、以下の10項目です。地域産業・観光の振興及び地域づくりに関すること。地域の発展に係る共同研究の推進に関すること。産学連携に関すること。地域文化及び伝統行事などの振興並びに地域活性化の推進に関すること。国際交流の推進に関すること。教育の推進と支援及び教育への提言に関すること。生涯学習の推進に関すること。インターンシップなどの現地学習に関すること。施設などの利用に関すること。その他両者が必要と認める事項。
 連携締結にあたっては、まず国が今、まち・ひと・しごと創生総合戦略を進めるなかで、大学として何ができるかという問題意識がありました。また、本学の歴史は、もともと戦時中に強制疎開させられていたシスターたちが、野沢温泉村から長野に出た折、地元の要請もあって、長野の女子教育のためにここに留まったことに始まっています。以来私共の存在意義は、この長野地域のための女性の教育です。これからも女性たちが、地域を支える存在として地域にあり続けるため、産業界と大学がどんな協力関係を築けるのか、一緒に考える機会を設けたいと考え、この包括連携協定締結に至りました。

 

女性が活躍できる機会と
環境づくりを

── 産業界に対してどんなことを望まれますか。

芝山
 女性が社会で活躍するうえで、まだまだ多くの障害があるなか、大学ではこうした障害を教育の場から排除し、全学生があらゆる体験のできる体制を整えて、職場でリーダーシップを執れる人材、あるいはリーダーの言っていることを理解し、実行できる人材を育てています。地元企業の皆様には、こうした学生たちを受け入れていただきますので、彼女たちが活躍できる環境づくりをお願いしたいと思います。また、以前なら業種業態により、女性には勤まらないと考えられていた職場でも、現在は状況が変わってきています。あらゆる職場で、女性が活躍できる機会を与えていただきたいと願っています。さらに、本学は韓国、台湾など海外の教育機関と学術提携をしていますので、そうした学生のインターンシップもぜひ積極的に受け入れてください。
 全国的な課題としては、保育士の待遇改善も挙げられます。彼女たちの待遇が改善して同じ職場に定着すれば、保育の受け皿がしっかり確保されますので、安心して子どもを預けて仕事ができる女性も増えます。また、男性の育休取得を誰でも取れるようにするなど、男性の働く環境も変えていくことで、女性の働き方も変わってくるかと思います。こうしたことについても期待を持っています。
 もちろん、我々に協力できることもあります。たとえば、本学にはキャリアデザインや女性学を専門にする教員がいますし、人間学部には心理学のプロもいます。職場環境に関するさまざまな問題について社会調査を行ったり、具体的な解決策に向けた提案をしたり、さまざまなお手伝いができると考えています。

 

深い人間理解に基づいた
専門職を育てる

── 清泉では今、どんな教育に力を入れていらっしゃいますか。

芝山
 教養教育を本質とした基礎教育です。19世紀の大学論からすでに言われている通り、大学とは本来、単なる職業教育を行うところではなく、さまざまな専門的学知に対し、これらを統合し得る力を養う場です。その意味において、教養教育やリベラルアーツ的なものが非常に重要なはずが、現在の日本の高等教育ではこれが稀薄となり、職業教育に目がいきがちです。
 教養教育を十分に受けていない人材は、おそらく企業や事業所で有用な人材にならないでしょう。企業のトップの方に「どんな学生が欲しいですか」と伺うと、人間力やコミュニケーション力を挙げる方が多くいらっしゃいます。数年後には役に立たなくなるトレンドのプラクティカルスキルより、もっと大事な部分、まり基礎教育を本学ではまずしっかり行います。よい意味でヨーロッパの学問伝統を受け継ぐ清泉の特色でしょう。
 特に、人間存在の中心に関わる学問をすべての学生が履修し、自分がなぜ生かされているか真剣に考えます。そのことが、自分自身と向き合いながら、人の役に立つことで幸せを得る喜びを彼女たちにもたらしています。併せて、共感力やレジリエンス(打たれ強さ)が備わっていること、そこが本学の強みです。
 そうしたベースの上に、保育士、幼稚園教諭、英語教員、心理カウンセラー、アート・ディレクター、商品開発者、コミュニティ・デザイナーなどの職業教育を施し、それぞれの専門分野における最高のものを付けて、地域に送り出しています。それゆえ、地域から「清泉の卒業生は何か違う」と言ってくださるわけです。 
 おかげさまで清泉は、長野市を中心に長野県出身の学生の比率が9割程度と高く、彼女たちは皆自分のふるさとが大好きです。もともと自分の生活世界である長野市に密着した思考をしているところへ、今お話ししたような学知を身に付けることで、常に自分が好きなふるさとのために何ができるかを考えています。
 昨年、教皇フランシスコはその回勅において「ケアの文化」について言及されました。これから少子高齢化が進む日本でも、まさに課題となっていることです。小さなお子さんからお年寄りに至るまで、あるいは自然環境に対しても、各々のニーズに応じたケア社会をどうつくるかを我々は問われています。その際、カトリック系大学である本学にできることはきっと少なくないでしょう。これからのケア社会のあり方について、地域の皆さんとともに考え行動することで、いきいきとした地域づくりに貢献していきます。
 現在、本学の長野市における大学、短大、中高の2021年に向けたあるべき姿を検討しています。このプロジェクトは仮称SJN21といいますが、SJは清泉女学院を、Nは長野とネクスト・ジェネレーションを表しています。引き続き、深い人間理解に基づいた専門職を育てながら、地域の皆さんとの連携を深め、長野発のビジネスモデル、社会モデルを提案していきたいと考えます。

 

芝山 豊さんの横顔
平成26年に「上映を続ける生きた映画館をいかに残していくか」を学問する、「映画館学会」をその映画館や関係者等ステークフォルダーの中心となって立ち上げた人物。


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