2015年11月号

View Point

近藤 守氏(こんどう まもる)

長野市教育長

昭和23年生まれ。信州大学教育学部卒業後、佐久市立岩村田小学校教諭、長野市教育委員会事務局、同事務局文化課長補佐、天龍村立天龍中学校長、長野市立後町小学校長、信州大学全学教育機構特任教授等を歴任。平成22年より長野市教育委員長、平成27年4月より現職。

子どもを育てることは
地域や日本の将来にとって
大事なミッションです

 少子・人口減少社会、グローバル社会等激動の時代を生き抜くためには、子どもの育ちや学びの連続性に着目し、一貫した教育体系を構築する必要があります。また、価値観の多様化する現代にあって、学校だけでなく家庭や地域が連携、協働して、多様な視点をもって子どもの教育に関わることが求められています。子どもを育てることは、私たちの将来にとって大事なミッションです。

「知・徳・体」の
バランスのとれた教育を

── 4月に教育委員会制度が変わりました。今後、長野市の教育をどう進めていかれますか。

近藤
 新制度になっても、子どもたちの健全育成という観点は従来通りです。組織が一本化され責任体制が明確になったことで、教育施策をより強力に進めていくことになります。
 長野市では、教育振興基本計画において、「明日を拓く深く豊かな人間性の実現」を基本理念に掲げています。子どもたちに、思いやりの心、自律心、豊かな情操、創造力を育んでもらい、自然と文化あふれる郷土に誇りを持ってもらえるよう、市民の皆様とともに広い視野から教育に取り組みます。
 基本計画では、4つの基本的方向を定めました。第一は、次世代を担う子どもたちの「生きる力」の育成です。
学校は、ひとづくりの場です。子どもたち一人ひとりが、かけがえのない尊厳を持った人間として自立できるようにするため、特に教職員の力量の向上に力を入れています。子どもたちにとって、学校でいい先生に触れ合うことは、教育そのものと言ってよいほど大切です。市では、教職員研修の充実や授業の改善に取り組んでいきます。また、小中の9カ年で一貫した育ちを促す仕組みづくりも進めます。第二は、地域に支えられ、親と子が共に学び育ち合う環境の充実です。家庭・地域・学校の役割を明確にし、それぞれの教育力を向上するとともに、互いの連携・協働を拡充します。なお、基本的方向の第三は生涯学習の充実、第四は文化力の向上について施策を示しています。
 子どもの教育について、基本計画の具体的な教育施策として「しなのきプラン29」を策定しました。少子・人口減少社会、グローバル社会、高度情報化社会などの到来で、子どもたちが激動の時代を生き抜くためには、育ちや学びの連続性に着目し、一貫した教育体系を構築する必要があります。
 同プランでは、社会への出口である18歳の目指すべき人間像を「グローバルな視野を持ちながら、ローカルに逞しく生きる自立した18歳」として、これを子どもに関わるあらゆる大人たちが共有し、責任を果たしていく具体策を盛り込みました。
 まず長野市は、学力を、A学力(知識・技能)、B学力(活用、思考力・判断力・表現力)、C学力(意欲・態度)の3つに分類し、それぞれ時間をかけて育てていきます。特に3つめの意欲・態度は、重要な資質・能力と位置づけています。将来の夢や目標と見通しを持ち、努力を継続できる力、規範意識を持ち、自己をコントロールする力、他者を尊重し、積極的に人間関係を築こうとする力、粘り強く課題に対応し行動する力につながるからです。同プランではさらに、ABC3つの学力の土台となる健康・体力、情操・人間性を育むことにも力を入れ、「知・徳・体」をバランスよく伸ばすことも目指していきます。
 最初は無色透明だった子どもたちが、次第に十人十色へと成長していきます。その先で、気持ちの部分で十色が一色になるといいなと私は思います。強制して一色に染めるのでなく、さまざまなことを学びながら、人の心のひだ、機微を自然に理解し、互いを思いやり助け合い、絆をつくっていくような、美しい心を育んでもらうために教育はあるのだと考えます。

 

経済界とも連携して、
子どもの郷土愛を育む

── 基本計画のなかで、家庭や地域との役割の明確化と学校との連携というお話がありました。

近藤
  教育委員会だけで教育を担う時代ではなくなってきており、さまざまな皆さんと連携していく必要があります。子ども一人ひとりがどんなふうに育ってほしいか、家庭や地域と共有しながら教育を進めていこうと考えています。
 まず家庭について。子育ての出発点は家庭教育です。家庭の役割とは、親が家庭生活を通して子どもとの信頼関係を築き、各年代にふさわしい発達を促し、一人前の社会人として育てること。加えて、家族が助け合い支え合うことで、思いやりの心を育み、また、基本的生活習慣を身につけさせるとともに、自律心の育成や心身の調和のとれた発達を育むことです。
 連携について、たとえば家庭の教育力の向上のため、市PTA連合会が主導し、市教育委員会、市校長会も共同して、「長野市大人と子どもの心得八か条」を作成しました。あいさつをきちんとすること、感謝やごめんなさいの気持ちを素直に伝えること、相手の立場に立って考えること、約束を守ること、我慢する心を持つこと、年長者を敬うこと、命を大切にすること、夢に向かって努力することがその内容です。
 毎日のなかで、朝ご飯を一緒に食べること、親子で同じ本を読んで感想を言い合うこと、掃除など家での役割を子どもに与えること、これらも立派な教育であり、自分も家族の一員であるとの自覚が、子どもの社会性を育みます。
 学校の役割は、子どもたちに基礎学力を身につけてもらうこと、人として社会のなかでより良く生きていく準備をしてもらうことです。社会性については、子どもが家庭生活で考えてきたことを、今度は学校の同年代の集団のなかに入って考えることで、社会に出る心構えもできるものと考えています。
 地域との連携については、経済界の皆様と一緒にできることはとても多いので、長野商工会議所に教育問題特別委員会があることはとても心強く思います。今後も話し合いの場を持たせていただき、たとえば、親御さんがPTA活動に参加しやすい環境づくりを、お勤め先の企業で進めていただけるようになると良いと思います。
 グローバル化の一方で、地域では人口減少が進んでいます。地域の発展のためにも、いわゆる「グローカル」な視点を備えた人材が、ふるさとで活躍することが望まれます。子どもたちが郷土愛を持って、就業年齢に達したら地元で働けるような土壌づくりでも、学校と経済界が連携、協働することが進むと思います。
 現在、高校卒業生の6割が長野市の外へ出ていってしまっていますが、加藤市長もこの状況を逆転したいと話しています。たとえば、地域企業での職場体験や農業体験も子どもたちには貴重な機会です。こうした経験を通じて、地域のことを勉強していけば、彼らなりに地域の課題を掴み、解決へ向けた発想も生まれ、将来地域のために役に立ちたいとの想いも育まれていくでしょう。
 子どもは、家庭や学校のなかだけでなく、地域で育ちます。その意味で、教育とまちづくりは密接に関連しています。長野商工会議所はまちづくりにも熱心に取り組んでいらっしゃいますので、今後、ぜひ話し合いの機会を増やしていただけることを願っています。
 子どもを育てることは、地域や日本の将来にとって、とても大事なミッションです。学校、家庭、地域が、目指す人間像を共有しながら、多様な目をもって子どもたちを育てていくことが、これからますます必要な世の中になってくるのではないでしょうか。

 

近藤 守さんの横顔
自宅には自慢の機材を収めたオーディオルームがあり、生涯聴ききれないほどのレコードをこの部屋で楽しむのが至福の時。


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