2015年10月号

人きらっとひかる

西村 知子さん

地域の人々の気持ちに寄り添う
「気軽に通いたい文化財」を目指して

西村 知子さん
長野市有形文化財 寺町商家 管理責任者

 松代寺町の風情ある通りで存在感を放つ「寺町商家」。見学するだけでなく、誰もが気軽に立ち寄り、いろいろな交流を体感できる“生きた文化財”として認知され始めました。地域の人々のよりどころとなるような施設にしようと、スタッフとともに奮闘を続ける管理責任者、西村知子さんの言葉から、地元松代への熱い思いがこぼれ出てきます。

 

長く離れて戻った松代
個性と魅力を改めて実感

 数年がかりの大規模な保存修景工事を終え、この4月に公開された長野市指定文化財「寺町商家」。その運営に、管理責任者として携わっているのが、西村知子さんです。信州・長野県観光協会の職員でもあり、月の半分は長野県の魅力を県外や海外へ発信することに尽力。東京で信州の情報を発信する「銀座NAGANO」のコーディネーターとしても力を発揮しています。そこで得る各地の情報やノウハウを生かしつつ、寺町商家の活用を中心とした地域の活性化を担う活動に奮闘しています。
 松代出身の西村さんは学生時代に地元を離れ、いくつかの職業を経験後、Uターン。地域の会合などに参加するようになって、松代のおもしろさを改めて実感したといいます。ことに地元の人々の潜在的なパワーは感動的ですらあったのだとか。
 「普通の人がさりげなく一芸を持っていて、皆さん、ここぞという時に堂々と披露できる腕前なんです」。謡曲、詩吟などの古典芸能に堪能な人、歴史に詳しい人、建築を熱く語る人、食に一家言を持つ人…。その幅広さ、奥行きの深さは、そのまま松代の魅力に見えたそうです。「そうした“一芸”を個人の趣味で終わらせず、多くの人に見せながら伝えていくことが新しい交流につながれば」。西村さんのそんな直感が、寺町商家のユニークな取り組みに生かされています。

守るだけ、公開するだけでなく
集い、語らい、通える文化財へ

寺町商家
猛暑の季節の朝活営業、ワンデイシェフ、各種セミナー等、ユニークな取り組みが注目される寺町商家。写真は7月に開催された銀行主催のマネー講座のワンシーン。松代の新たな“商機”としても期待?

 寺町商家は、江戸末期から昭和初期まで質屋などを営んでいた商家。傷んだ旧宅を復元し、地域の宝として保存していくことは、松代の人々の願いでした。長野市の文化財として修景、公開されることになったのを機に、以前から松代の歴史や文化を発信し、地域の活性化を推進している「NPO法人夢空間 松代のまちと心を育てる会」が長野市の指定管理者に名乗りを上げ、運営にあたることが決定。松代にゆかりある若い世代で構成する「松代若者会議」も積極的に加わり、そのメンバーであり、「NPO法人夢空間」の理事として西村さんが管理責任者を任されることとなったのです。
 西村さんが目指すのは、守り、公開するだけでなく、貸しスペースを提供するだけでもない、能動的な“生きた文化財”。そのために仲間や周囲の人々と話し合いを重ねるなか、地域のさまざまな課題が見えてきました。子どもの遊び場が少ないこと、カフェや喫茶が少なく、ちょっと話をしたり休んだりする場所に困っていること、公共図書館がないこと、主婦が短時間働ける職場を見つけにくいこと。日常のこうした小さな、しかし切実な「欲しいもの」を補うことで、地域の人々が足繁く通いたくなる場所にしようと、西村さんは考えました。
 近隣の主婦やIターンの若者をスタッフに迎え、喫茶を展開。月数日のランチタイムには、食育や郷土食に関する活動をしているグループによる「ワンデイシェフ」が人気を集めています。自分のお気に入りの本を自分の分身とし、本を通じて交流ができる「ホンダナ」、個性的な講座、セミナーが徐々に始まりだしています。

時代を生き抜いた商家の空間で
新たな挑戦、新たな展開を

 文化財で飲食できるようにするため、管理団体のNPO夢空間とハードルを乗り越えてきました。今後は飲酒のハードルを越え、松代の伝統的な盃ごと「北信流」を継承したいと考えています。
 元々この商家を営んでいた金箱家は勉強熱心だったと言われる家柄。時代を果敢に生き抜いた先人たちの歴史が息づくこの場所は、松代の人々の新たな挑戦、新たな展開にふさわしい舞台といえそうです。
 「声をかければ新しいアイディアを出してくれたり、情報を教えてくれたり、手を挙げて協力してくれる人々が、ここにはたくさんいるんです」と、西村さん。「失敗を恐れず、いろいろな取り組みを試してみたい」と、前向きです。
 ところで、西村さんは銃猟免許を持つ現役猟師。狩猟、解体、ジビエ料理にも精通しています。ワンデイシェフや教養講座にジビエ料理のプログラムが登場する日は、遠くないかもしれません。

 

松代若者会議 施 設 名:寺町商家
開  設:2015(平成27)年4月
業務内容:江戸時代末期から昭和初期まで質屋等を営んでいた商家・金箱家の店舗・旧宅が長野市の文化財として修景・公開されるにあたり、「NPO法人夢空間 松代のまちと心を育てる会」が指定管理者となり、西村さんが責任者に。喫茶、図書館などの取り組みを通じ、歴史を伝える文化財としてのみならず、地域の人々が気軽に集える場所として存在感を放つ。
所在地:長野市松代町松代1226番地2 TEL 026-214-5013
URL:http://teramachi-shouka.com/
Facebook:https://www.facebook.com/teramatisyoka

松代の農家に生まれ育ち、ベンチャー企業、県内外でのパン製造、長野県農政部嘱託職員を経て2014年オープンの「銀座NAGANO」コーディネートに携わる。現在も信州・長野県観光協会職員として活動。地元の魅力をPRし、体験交流の取り組みを行う「NPO法人夢空間 松代のまちと心を育てる会」や、地域づくりを考える「松代若者会議」に席を置き、「寺町商家」の管理・運営の責任者として、柔軟な発想で地元の声が生きる取り組みを展開している。


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