2015年9月号

View Point

石原 秀樹氏

石原 秀樹氏(いしはら ひでき)

長野県産業政策監兼産業労働部長

昭和32年生まれ。中央大学法学部法律学科卒業後、昭和56年に長野県庁入庁。生活環境部消防防災課係長、農政部農業政策課企画幹兼課長補佐、観光部観光振興課長、商工労働部産業政策課長などを経て、平成26年4月より現職。

自ら現状を変え成長を志す
意欲あふれる事業者の方を
県もどんどん支援していきます

 中小企業の事業を応援し、地域に継続的に雇用をつくることが県産業労働部の使命です。地域がそれぞれの強みを活かす時代、長野市は新幹線延伸や、産学官連携など、他にないメリットを持っています。まずは身近なところから小さくてもいいので成功事例を積み上げていけば、日本にしかできない産業をここから発信することも可能です。やる気のある事業者には県もどんどん支援します。

地域のなかに継続的に
雇用をつくることが使命

── はじめに、県産業労働部の役割についてお聞かせください。

石原
 中小企業の方々が活躍できる環境づくりが、私共の大きな仕事です。例えば資金面では県の融資制度を充実させ、創業の場合、1,000万円までは自己資金なしでお貸しする制度があります。現在、創業時の金利と保証料を合わせた自己負担額は、長野県が全国一低い状況にあります。
 一方、県の施策では行き届かない部分については、商工会議所や商工会にきめ細かな対応をいただき、たいへんありがたく思っています。特に商工会議所は、経済だけでなく地域づくりの面でもたいへん重要な役割を担っています。長野の場合ですと、たとえばえびす講煙火大会の資金集めや運営にご尽力いただき、イベントを盛り上げることで、地域活性化にいい影響を及ぼしています。県としてはこれからも、商工会議所の活動としっかりタッグを組んで連携を図っていきたいと考えています。
 日本経済は、長いデフレの時代は抜け、経済指標を見ても、いい方向に進んでいることは確かです。長野県の有効求人倍率は1.25倍で全国平均よりずっと上ですし、倒産件数も少なくなってきています。しかし、中小企業の方々の活動を見ると、実のところ景気回復の実感は乏しいかもしれません。特に最近は円安の影響がかなり大きく、原材料やエネルギーが高騰していますし、人口減少による市場の縮小も、経営に悪い影響を与えています。県では、こうした環境をうまく乗り越えていくための支援をしていくつもりです。
 また、県内中小企業の約6割強の方が後継者問題に悩んでおり、人材に関わることも大きな問題です。中小企業の皆さんは、特徴ある技術を長年培ってきただけでなく、地域において一定の雇用創出にも貢献していただいています。そうした魅力ある技術を継承し、また雇用を維持するためにどうすべきか、県も真剣に考えていきます。地域のなかによりよい条件の雇用を継続的につくることが、県産業労働部の使命であると思っています。

 

産学官連携が進んでいるのは長野市の強み

── 県内でも特に北信地域や長野市の産業について、どんな課題や可能性がありますか。

石原
 長野市のことでいえば、北陸新幹線が金沢まで延伸しましたので、これをいかに活用するかが、これからの大きな課題だと考えています。
 私の認識では、長野県では以前ほど、地域的な課題の差異は大きくないように思います。むしろ、それぞれの地域のなかで強みを把握し、これを活かすべく対策を実行していくことが重要です。弱みに目を向けてマイナス思考になるのではなく、もっとプラスに考えていただきたい。
 長野市の場合でしたら、まさに新幹線は強みですし、産学官連携が進んでいることも、この地域の大きな強みです。たとえば、信州大学工学部に今年3月、「信州大学国際科学イノベーションセンター」ができました。オールジャパン体制で「水」に関する国家的な研究を行う施設です。
 昨今、日本では人口減少が問題になっていますが、世界に目を向ければ、爆発的な人口増加に今後どう対処するかが課題で、特に水と食糧対策が鍵になります。そこで、信州大学が得意とするナノカーボン技術を応用して水分離膜を開発し、海水を低コストで淡水化したり、鉱物や油を含んだ水を浄化したりして、世界中に使える水を供給するプロジェクトが発足しました。メンバーには、信州大学、長野県、そして日立製作所インフラシステム社、東レ、昭和電工をはじめとする大手企業も参加しています。今後の性能検査や社会実装では、県内企業の皆さんにもご参加いただきながら、有益なアイデアをいただければと願っています。
 また、日本無線が千人規模の研究所を東京都三鷹市から長野市に移しました。長野市を選んでくださったのは、その環境の良さが大きな要因でしょう。仕事と家庭のバランスが大きなテーマになる時代に、自然環境、教育環境、医療環境、文化的な水準、首都圏とのアクセス、住みやすさ等を考えたら、長野市にはかなり大きなメリットがあります。研究開発やIT関連の産業が集積する可能性は大いにあると考えます。

 

日本にしかできないものをつくるために

── 長野市や長野県の産業は、これからも伸びていくということですね。

石原
 はい。ただし創業というのが、ひとつ大きな課題です。長野県内は、開業率が廃業率より低く、このままいけば企業数は減少していきます。できることなら、若い企業が県内でたくさん生まれてほしいと考えています。
 新たに事業を興す場合、従来は欧米の先進事例に学び、日本風にアレンジすればよかったのですが、少子高齢化にみるように、日本が世界のフロントランナーとなった分野では、参考にすべき先進事例がなく、自分自身で何かをつくっていかねばなりません。
 これからは帰納法的に事業を生んでいく時代です。まずは身近なところに小さくてもいいから成功事例をつくり、これを数多く蓄積しながら、実際に創業する際のポイントを整理分析し、多くの方々と共有することで、事業を立ち上げるスピードを高めていけたらと考えています。また、現在、長野県中小企業振興センターのなかに、創業サポートオフィスや後継者バンクもありますので、いい技術を持ちながら事業承継で悩みを抱える企業と、能力とやる気はあるが資金力などに乏しい若者とのマッチングにも取り組んでいきたいと思っています。
 そして、日本にしかできないものをつくるには、中長期的視点の人づくりが必要です。4年制大学を卒業した人材だけでなく、優秀な技能者をしっかりと育成していくべきです。県には技術専門校や工科短期大学校があり、来年の春には伊那にも南信工科短期大学校が開校します。特に工科短期大学校では卒業者のほとんどが地元に就職しますから、その重要性は一層増すことでしょう。
 長野市周辺では先ほどもお話しした水処理プロジェクトが進み、中信地方ではヘルスケア産業の振興に向けた取り組みが盛んですし、南信には航空産業の下支えができる産業が育っています。また、きのこ用高圧殺菌釜の技術を応用して航空宇宙分野に進出した羽生田鉄工所、センシング技術を応用して歩行バランスをチェックする計測機器を製造するマイクロストーンなど、世界を相手にビジネスを展開する中小企業もどんどん現れています。長野県の産業はこの先も大きな可能性を持っています。自ら現状を変え成長しようという意欲ある方に、県はどんどん支援していきます。どうぞお気軽にお声かけください。

 

石原 秀樹氏 石原 秀樹さんの横顔
昔は山が趣味で、ヨーロッパアルプスをスキーで縦走した経験もある。今オフには、奥様とドライブに出掛け、道の駅を巡るのが楽しみのひとつ。


ページ: 1 2 3