2015年6月号

View Point

藤井 武晴氏

藤井 武晴定氏(ふじい たけはる)

しなの鉄道株式会社代表取締役社長

昭和19年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、昭和43年に株式会社八十二銀行入行。八王子支店長、東京事務所長、坂城支店長、営業渉外部長を歴任。平成11年6月、長野電鉄株式会社常務取締役に就任。平成21年同監査役。平成24年より現職。

安全・安定輸送と
「地域に生きる」を使命とし
地域の振興に貢献していきます

 おかげさまでこの3月に北しなの線が開業しました。鉄道事業者の使命である安全で安定した輸送と良質なサービスに努めるとともに、当社は「地域に生きる」を旨とし、鉄道事業を通じて地域振興に取り組んでいきます。たとえば、観光列車「ろくもん」も大いに活用しながら、信州ブランドの向上に貢献し、さらに信州の魅力を幅広い層の皆様へ発信していきます。

入念な準備を経て
開業となった北しなの線

── 北しなの線開業までの経緯やご苦労、今後の課題等についてお聞かせください。

藤井  新幹線開業に際して、その並行在来線の経営は沿線自治体が引き継ぐことが、基本的な考え方になっています。当社も、長野新幹線開業に伴い、軽井沢─篠ノ井間の並行在来線事業を引き継ぐ第三セクターとして、翌年に長野五輪を控えた平成9年10月1日開業しました。北しなの線についても、新幹線延伸にあたり、長野─妙高高原間の経営を当社が引き受ける形で開業しました。
 経緯について、古くは10年1月に長野県知事とJR東日本が経営分離を行うことで合意し、18年5月に長野以北並行在来線対策協議会が発足しました。当社が関わるようになったのは、24年4月の臨時株主総会において、この区間の経営を引き継ぐことが決議されてからです。その後、開業準備室を立ち上げ、この度開業の運びとなりました。
 開業までの苦労と言いますか、気を遣った点は3つほどあります。まず、サービスについてです。運賃は、従来のしなの鉄道線と同一水準とし、激変緩和策として、JR線との乗り継ぎ割引や学生定期券の割引を設けました。ダイヤは、上下各2本計4本増便し、妙高高原から小諸までの直通便も上下計3本設けました。窓口の営業時間は、利用実態に即して新たに定めました。なお、北しなの線では車両内にトイレを設けていませんので、今後駅のトイレを充実させていきます。
 2つ目は設備の問題です。CTC(列車集中制御装置)が、従来のしなの鉄道線と新区間で異なるシステムを採用していたため、新システム立ち上げに際し慎重に運行テストを重ね、また豊野に派出所を設けるなどして安全を期しました。
 3つ目は運行環境の問題です。豪雪地帯での運行に対応するため、除雪車を新たに購入し、除雪要員も2名新規に採用しました。また、単線区間や狭隘でカーブの多い地形への対応については、JRに出向してそのノウハウを学びました。
 北しなの線の課題について、最も重要なことは安定的な経営の確立です。
北しなの線運営協議会など地域の団体と連携して、利用促進を図っていきます。第三セクターであるしなの鉄道は、地域の中で地域の人々とともに地域のために、安全で安定した輸送と良質なサービスを提供し、もって地域に貢献することが最大の使命です。
 もう一つは、地域と連携した広域観光の推進です。北しなの線沿線には、数々の観光スポットがあります。当社や他の交通機関が連携することで、新幹線で長野県にみえたお客様を各地へご案内し、観光振興につなげていきます。

 

「ろくもん」は信州ブランド
向上の一翼を担う

── 従来の路線も含め、しなの鉄道は今後どんな役割を地域で果たしていかれますか。

藤井  沿線自治体のご支援により成り立っている当社の使命は、ただ今も申し上げた通り安全・安定輸送です。加えて当社が目指すのは「地域に生きる」こと、つまり地域と共生し、地域に貢献する企業となること、鉄道事業を通じて地域を元気にすることです。しなの鉄道活性化協議会、北しなの線運営協議会、しなの鉄道沿線観光協議会等の皆さんと一緒に、地域の活性化のために何が考えられ、当社がこれにどう関わっていくべきか互いに知恵を出し合っています。
 たとえば、魅力ある駅づくりもその一つです。単なる乗降の場ではなく、駅をまちのステーションとして、きれいなトイレのある休憩機能、Wi‐Fiも利用できる情報発信機能、駅をキーとした他の施設との連携機能をさらに向上させたいと考えます。
 地域振興については、観光列車「ろくもん」も大いに活用していきます。ろくもんの魅力を3つ挙げるなら、水戸岡鋭治氏による車両デザイン、車両の部材も提供する食事の食材も県産にこだわった沿線地域の魅力満載列車であること、沿線の歴史とともに、日本の原風景を思わせる景観や風土をストーリーとして提供できることです。
 鉄道事業本来の役割は、お客様に移動手段を提供することですが、ろくもんはこれに加え、お客様に「走る観光地」を提供しました。ろくもんという観光地は、自ら走りながら、信州の観光地をつなぐ機能も果たします。ろくもんをもってしなの鉄道は観光事業に参入し、しなの鉄道ブランドを構築したのみならず、信州ブランド向上の一翼をも担ったと自負しています。事実、昨年7月の初運行以来、中央のマスコミで取り上げられた効果もあり、予約状況も好調です。今や県外のお客様が6〜7割を占めるようになりました。そして、乗車されたお客様からは常に高い評価をいただいています。今後さらに商品力を高め、信州の観光地としての魅力を、世代や国内外を問わず幅広い方々に発信していきます。
 他にも新たな営業戦略として、高齢者の外出機会を増やすしくみづくりのため、年齢65歳以上のシニア向けフリーパス「しなの鉄道シルバーパス」を発売したり、ポイントサービスや会員割引をご利用いただける「しなてつファンクラブ」の会員募集を行ったりしています。

交通ネットワーク構築が
二次交通の務め

── 他の交通機関等との連携について、これから目指していくことは何でしょうか。

藤井  新幹線を一次交通とすれば、二次交通としての我々がなすべきは、交通ネットワークの構築です。したがって、まず新幹線との乗り継ぎ利便性を高めるためにダイヤを編成し、同時に飯山線や小海線といった他のJR線、長野電鉄線、上田電鉄、そしてバスとの連携も大切にしています。例えば、軽井沢から別所温泉のフリー切符もできていますし、しなの鉄道線とJR線(篠ノ井─長野間)が1日乗り放題になる軽井沢・長野フリーきっぷも販売されています。今後、こうした商品をさらに拡大させ、もっと広域なエリアを1枚の切符で乗り継げるようにしたいと考えます。
 また、北陸新幹線開業により、新潟、富山、石川に並行在来線の経営を引き継ぐ会社がそれぞれできました。将来これらの皆さんと、当社のろくもんとでリレー観光列車を運行したいという夢もあります。スピード輸送が第一義の新幹線に対し、こちらはゆったりのんびりした旅を楽しむ機会を提供します。途中駅でさまざまなイベントが繰り広げられるのも楽しいでしょう。そんなふうに、地域の魅力を再発見し、これを発信することで、「地域に生きる」ことを実現していきます。
 沿線地域の皆様には、しなの鉄道やその駅を、ぜひ自分たちの列車、自分たちの駅とお考えいただき、想いや声をたくさん寄せてください。皆様と一緒に我々も地域のことを考えていきます。

 

藤井 武晴氏 藤井 武晴さんの横顔
「銀行の仕事も鉄道のそれも事業を通じて地域に貢献することでは同じ」と語る。休日は畑に出て土に触れ、野菜づくりに勤しむ。


ページ: 1 2 3