2014年10月号

View Point

鷲澤 幸一(わしざわ こういち)

長野商工会議所教育問題特別委員会委員長
炭平コーポレーション株式会社代表取締役社長

慶應義塾大学経済学部卒業後、平成3年7月炭平コーポレーションに入社。平成5年10月に炭平興産、平成13年9月に炭平コーポレーションおよび炭平本店の代表取締役社長に就任。
長野県セメント卸売協同組合理事長、長水生コン事業協同組合理事長、長野市PTA連合会会長(平成23年度)。

会社の成長と個の成長を
併せて実現できる人材育成に向け
経済界も教育に関わるべきとき

 会社の成長は、そこに働く個人の成長あってこそ実現します。しかし、様々な現場で人手不足が問題となる今も、企業と人材のマッチングは進みません。社会が必要とする人材の育成のため、経済界も積極的に教育へ関わるべきです。長野商工会議所に今年6月設置された教育問題特別委員会では、子供たちに職業観を養ってもらう機会を提供するほか、キャリア教育にも力を入れていきます。

教育は社会全体にとって重要な問題

── 鷲澤さんは6月に設置された教育問題特別委員会の委員長をお務めです。この委員会の目的はどんなところにありますか。

鷲澤 この委員会では、社会や企業が求める人材育成について調査、研究し、教育関係機関への提言などを通して、社会が必要とする人材を義務教育の段階から育てる環境整備を目指します。具体的な活動はこれからですが、まずはアンケート調査や関係機関との意見交換から始めます。
 今回委員会が設置されたのには、以下のような背景があります。経済界、産業界として、いい人材を確保したいとの思いはあるものの、ここ数年会社に人材がフィットしないことを多くの経営者が悩み、「七五三現象」と言われるように、就職後3年以内に中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が離職する状況が続いています。ただでさえ人手不足が深刻な今、人材と会社がマッチしないことは、両者にとってとても不幸なことです。
 そもそも教育は社会全体にとって重要な問題であり、学校だけに任せるのではなく、家庭や地域も関わらなければなりません。そして私たち経済界も、もはや無関心でいられず、これからは積極的に教育へ関わっていく必要があります。世の中の職業がどんどん多様化する時代です。子供たちが小さい頃から、経済とか商売といったものを意識して、仕事をすることへの関心を高めてもらえる機会を提供できたらと思います。
 また、昨今はキャリア教育の重要性も指摘され、人生を通じて学ぶこと、学びの機会を提供することが求められています。すでに職業に就いている人も、常に自分のキャリア形成を目指し、成長のために生涯を通じて学べるよう、就職後のキャリア教育にも力を入れていきます。

子供の職業観を育てることが人材育成の鍵

── 経済界として教育界にどんなことを伝えていきたいとお考えですか。

鷲澤 会社が伸びていくためには、会社も個人も伸びていかなければなりません。つまり自分も会社も成長させられる人材に育ってほしいものです。まずは子供の職業観や仕事への意識を養うことが鍵になると思います。
 当社グループの中に、長野平青学園という専門学校があります。開校して20年になりますが、生徒の職業意識、就職意識が年々薄れていると危惧しています。専門学校ですから、卒業後は就職を前提としているはずが、学生に就職意識を持たせることが、先生の大きな仕事のひとつになっているのです。これは本来親がやるべき仕事でしょう。ところが、親さえも就職や仕事に対する意識が稀薄な場合があるのです。教育とはやはり家庭なども含めた環境の問題であると改めて感じます。
 何がこうした状況をもたらしたか詳らかにできませんが、日本が豊かになり、個々の家庭も恵まれてきて、貧乏など生活の苦労を子供が肌で感じることが少なくなっていることは確かです。非正規雇用の待遇が社会的問題となる一方で、アルバイトでその日暮らしをすることをよしとする若者が多いこともまた事実です。
 先ほどもお話ししましたが、教育に関わるプレーヤーは学校だけでなく、家庭や地域、そして経済界もその一員であるとの認識が必要です。まず家庭においては、子供にもっと忍耐することを教えるべきです。入社後間もなく離職する若者たちを見て、もう少し我慢すれば、見える景色も変わってくるのにと残念に思うことがあります。
 地域社会にもできることがあります。私がPTA活動に長年関わるなかで感じたのは、親と学校の関係がぎくしゃくしていることです。特に学校側が親に気を遣って萎縮しているように見受けられます。学校と家庭を取り巻く存在である地域は、こうしたマイナス要素を取り除き、教育が伸び伸び行われるよう、一定の役割が果たせそうです。
 PTAといえば、長野市PTA連合会では、2年前に「子供と家庭の8箇条」をつくり、家庭も教育の場であることを、家庭に意識してもらうためのツールとしました。これに倣い、経済界が教育のプレーヤーとして果たすべき役割についても、同様のツールができたらと思っています。

変化に対応できたものが生き残る

── ご商売の話に移ります。御社は今年創業400年を迎えられました。企業が続くうえで最も大切なことは何でしょうか。

鷲澤 ダーウィンの進化論で言うように、強いもの賢いものが生き残るのではなく、変化に対応できたものが生き残るのだと思います。今当社の商売の柱は、セメントと生コンであり、その他の建設材料です。当たり前の話ですが、江戸時代にはセメントはありませんでした。当社は、時代ごとにその時代に合ったものを取り入れながら、本業の軸足を移してきました。
 セメントについても、これを始めてから121年になりますが、この間、新しい工法など時代の変化をいち早く取り入れ、自らが変わってきました。変化こそ当社のDNAなのです。未だに私は父から、「お前、次は何をやるんだ」と言われます。常に新しいものを入れて、それを事業化していきなさいという教えだと受け取っています。
 その父は大学生の時社長に就くことになりましたが、急逝した先々代を支えた番頭から、「同じことをあと5年続けるなら自分にもできますが、10年後20年後の会社の絵を描くのは社長にしかできません」と言われたそうです。この言葉も私はすごく意識しています。
 もうひとつ、当社がこだわってきたのが地域です。地域への貢献という使命感も当社のDNAでしょう。善光寺のお膝元で仕事を始め、ずっとこの長野市がフィールドでした。近年の高速交通網の発達により、長野市と首都圏との時間的距離が縮まり、経営環境も様変わりしましたが、当社が拠り所とするのはあくまで長野市であり信州です。単独では力不足な部分は、全国の同業者とネットワークをつくるなどしてノウハウを高め、今後も地元の建設業のお手伝いを通じて、地域の活性化に寄与していきます。
 株式会社とはいえ、当社の事業はあくまで鷲澤家の家業だと思っています。ただしオーナーである以上、何があろうとすべてに優先して会社を守ります。一方、できるだけ開かれた会社でありたいと願っています。それゆえに新入社員には必ず「出る杭になりなさい」と言います。出る杭は、ただ目立てばいいわけでなく、必要なものが3つあります。これはおかしいと思える「感性」と、それを言い出す「勇気」と、たとえ叩かれてもへこたれない「根性」です。そうした個の力が会社の成長エネルギーになると私は信じています。

鷲澤 幸一さんの横顔
6年続けているランニングは、すでに生活の一部になっており、フルマラソンにも毎年数回出場する。AC長野パルセイロの熱心なファンでもある。

 


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